障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.5

大企業と障害者雇用

執筆担当者

工藤 正 障害者職業総合センター 支援・雇用システム担当 主任研究員

序 課題と方法

1 問題関心
  日本における障害者の就業・雇用統計はきわめて少なく、障害者の定義の違いもあって厳密な比較は難しいが、アメリカと比べ日本の障害者の就業率(障害者人口に占める就業者の比率)は高い。ただし、その就業者のなかで雇用者が占める比率はアメリカでは高く、日本では低いという違いはあることには留意すべきである。日本では雇用以外の自営業、家族従事者、内職など多様な就業形態がみられる。また、雇用でも常用的雇用以外に臨時、日雇などがある。こうした就業形態の多様化がさまざまなレベルでの就業機会をつくり、それが全休として障害者の就業率を高くしているのであろう。もちろん日本の就業率が高いといっても、その水準は健常者と格差があり低く、その点ではこれからも改善すべき余地は大きいし、その就業・雇用の内容こそが問題となることはいうまでもない。
  こうした多様な就業形態の存在は、日本の産業構造や産業組織の特徴と無関係ではない。産業構造の高度化や技術革新の進展が、それを大きく変化させるかもしれないが、いちどできあがった日本の労働市場構造の急激な変化は予想できず、また、サービス経済化の進展を考慮すると就業形態の多様化はこれからも進むものと思われる。一般的にいえば、就業形態の多様化は、障害者にとってはいろいろな選択肢の拡大を意味する。しかし、1人の障害者にとって希望と能力に対応しない就業形態においやられること、言い換えれば、いろいろな就業形態を希望と能力に応じて選択し、移動できるシステムが十分機能しないと逆に不安定な就業。雇用への固定化を生みだすという懸念もある。障害者の就業・雇用にとって、就業形態の多様化のプラスの側面を活かす就業・雇用システムの構築こそが重要な課題となるのであろう。こうした多様な就業形態を活かした職業リハビリテーションの仕組みの工夫も、1つのアイデアとなるであろう。
  日本でも障害者労働市場のなかでは雇用者のウイエイトがもっとも大きい。そして、常用雇用が障害者就業モデルの基本であることは明確であろう。問題の1つはこの常用雇用分野が拡大してきているのか、それを拡大する仕組があるのかである。また、障害者が常用雇用として能力を十分発揮できる仕組ができているかである。もう1つの問題は、常用雇用の周辺にある非常用雇用分野で障害者が能力を十分発揮できる仕組ができているか、常用雇用分野への移行がスムーズにできるかであろう。さらにいえば、失業者や非労働力となっている障害者が非常用雇用分野や常用雇用分野へ容易に参入できる仕組をいかにつくるかという問題も大きい。現在、日本の障害者雇用政策の基本となっている障害者雇用割当制度(=身体障害者雇用率制度)が、こうした障害者就業・雇用にどのような影響を及ぼしているのかも解明すべき重要な課題となろう。
  いずれにしろ、障害者労働市場の状態を示す基本指標で、日本の就業率が高いことは、日本の障害者の就業・雇用システムの具体的内容やその構造の解明が研究課題としても重要であることを示している。つまり、就業率を高くしている障害者の就業・雇用システムのいわば日本型の説明モデルの構築が要請されているともいえよう。そのためには、まず、障害者労働市場の中核部分である日本企業における障害者雇用の実態をたんねんに調査して、そこの雇用支援システムを明らかにすることが第1歩となろう。
2 これまでの調査研究
  ここではまず上記の問題関心と関連する最近のいくつかの調査研究についてみておこう。障害者労働市場における中核部分の雇用、とくに大企業を中心とする雇用に注目する。1つは飯田橋公共職業安定所[1990]の調査がある。2つは日本障害者雇用促進協会開発相談部からの一連の委託調査研究がある。市場経済の視点をいれた障害者雇用に関する理論的アプローチの試みや見解もいくつかあるが、ここでは実証的調査結果と対応して理解できる事実や結論、見解に注目することにする。


飯田橋公共職業安定所の調査

  飯田橋公共職業安定所[1990]は、1990年に「身体障害者雇用状況報告書」の提出と併せて調査を実施、管内の民間企業3,982社のうち、過去1ヶ年間に障害者(身体障害者及び精神薄弱者)の採用者または退職者があった企業を調査対象としている。調査地域が東京の中心に本社がある企業に限定されていること(調査結果によると、過去1ヶ年の障害者採用者総数のうち、勤務地が関東地域であるものは61%を占めている)、また、集計結果の単位が企業数ベースではなく、障害者数べ一スが中心となっているため、メリットも大きいが企業行動を十分に明らかにできないという限界もあるが、企業における障害者雇用管理の状況を大枠で明らかにできるきわめて貴重なデータである。その調査結果のポイントは以下の通りである。

① このデータは大企業、とくに1,000人以上規模の傾向を示しているといってよい。それは、300人以上を大企業とすると、採用者総数の88%、退臓者総数の88%が大企業であること、また、1,000人以上規模を大企業とすると、採用者総数の71%、退職者総数の72%が大企業であることをみても明らかである(表1)。

②過去1ヶ年間に障害者を採用した企業の比率は、管内全体の企業の12%(472社)、退職者があった企業は15.4%(615祉)である。これを障害者数をベースでみたのが表1~7である。障害者の採用者総数1,216人、退職者総数1,563人で退職者の方が多い(表1,6)0つまり、全体としてみると障害者の採用者を退職者数以上に増やさないことには、障害者雇用率は、母数となる常用労働者数が一定としても、高くはならないことになる。
  ただし、ここで留意すべきは退職者のデータが過去1ヶ年間に採用した人の退職では必ずしもないことである。このデータからは障害者の定着が悪く、離職者が多いとはいえない。
  それは、退職者総数のうち、年齢が50歳代が31%、60歳以上が27%、両者をあわせ50歳代以上の高齢者が58%も占めていることをみても明らかである。そして、退職理由も「転職のため」が14%にすぎず、近年に採用した障害者が流動している、障害者の定着が悪いとは必ずしもいえない。障害者の高齢化は、個人のエイジングによる問題よりも、企業にとってはこの点での問題が大きいといえる。企業にとってみれば、高齢障害者の離職者の増加は、法定雇用率をクリアするためには、障害者採用の増加を強く要請することになるからである。

③ 採用者総数について障害種類別割合をみると、肢体不自由者が55%で最も多く、ついで聴覚障害者24%、内部障害者10%、視覚障害者6%、精神薄弱者4%の順で、ほとんどが身体障害者によって占められている(表1)。その身体障害者に限定されるが、障害等級1~2級の重度障害者は、採用者総数の35%を占めている。

④ 採用ルートとしては、公共職業安定所(ハローワーク)が52%と半数以上を占めている。
  重度障害者ほど職安経由の比率が高く、重度障害者では59%にも達している。採卵寺の年齢は30歳末満が45%である。これも障害の程度により異なり、30歳末満の比率は重度障害者が53%と最も高く、ついで、中皮障害の39%、軽度の36%である。

⑤ 採用障害者の雇用形態としては「正社員」が60%で、雇用形態の多様化がみられる(表2)。
  また、職業では事務的職業が48%で最も多く、ついで製造・建設技能工の19%、労務その他の12%の順である(表3)。そして、採用障害者の平均賃金は、身体障害者が15万5千円、精神薄弱者が11万円である。採用障害者の年齢のばらつきもあり、年齢をコントロールしてみないと平均賃金は余り意味がない。障害者の年齢別平均賃金は10歳代の11万9千円を100とすると、最高の40歳代は18万8千円で158であり、年齢別賃金カーブがねていることを示している(表4)。雇用形態別平均賃金では、「正社員」の17万円を100とすると、「パート」は11万6千円で68である。

⑥ 採用障害者の職場定着のために「何らかの配慮」を実施したとする企業は44%で、対象となった障害者ベースでは33%である。そして、その内容では「研修、能力開発」が障害者ベースで51%を占めている(表5)。「施設・設備の改善」は14%、「事務機器等の購入」は5%といずれも少なく、「勤務時間等の配慮」(27%)よりも低い。つまり、採用障害者に対する配慮は、設備・機器などのハード面よりも能力開発や勤卿寺問などのソフト面での対応が多いことを示している。

  上記の調査とは別の調査であるが、びわ湖会議協議会の就労系部会が実施した東京都下における企業。障害者の合同面接会の資料に基づく、企業の障害者求人の動向と求職者の状況の調査によると、雇用のミスマッチが大きいことが明らかにされている(表8)。そして、その結果は「これは、企業たたきの根拠とされる<企業が障害者求人をしない。軽度障害者しか雇用しない>のではなく、<企業の雇用ニーズにマッチした求職障害者がいない>という事実がより明確になったといえる」という(関宏之[1993])。


日障協の委託調査研究

  日本障害者雇用促進協会開発相談部の委託調査研究はそのテーマかみても広範囲にわたっており、ここでは前述した問題関心との関連から、主として大企業における障害者の雇用管理(雇用、採用、職務配置など)について何が明らかにされているのか、以下の5つに整理してみておくことにしよう。
  1つは、障害の種類や業種を限定せずに、事例調査研究を通して障害者の雇用管理を全般的にみたものに篠原幸哉ほか[1992]がある。19社の事例研究であるがそのほとんどが従業員1,000人以上の大企業で、業種は網羅的である。調査の結果、「全般的に共通して感じたのは職業安定所の影響である。直接的であれ、間接的であれ障害者雇用に関して職業安定所の存在を強く意識しており、実際に障害者の雇用促進への積極的、具体的取組みの背景に、職業安定所の指導と熱意をあげる企業が少なくない。」という。しかし、障害者雇用について理念的段階に止っている限り、実効はあまり期待できず、法定雇用率達成のためには具体的対応が必要となる。そして、「障害者雇用の具体的施策としては、職業安定所とのコミュニケーションの強化、障害者雇用率達成計画の作成、段階的雇用増、受入れ職場の確保、職域拡大、定員枠外での雇用等がある」。また、法定雇用率達成の基礎条件として、「全社的推進体制の確立が最も強く認識されている。その具体策としては、例えば社長の陣頭指揮、役員会・幹部会議等での重要議題。専任人事担当者の配置に加えて、全社的連動の展開、障害者関係法梓の説明会等社員に対する啓蒙、障害者へのキャンペーン等がある」という。
  募集・採用は、定期採用と中途採用が併用されているが、中途採用での採用が多い。配置については、採用後配置職場を決定する方式が主流であるが、予め受入れ職場を確保してから適格者を採用配置する方式をとっている企業も少なくない。配置にあたっては障害者の特性についても配慮しているが、その具体的配慮事項としては、「①就業業務を限定する、②通勤事情にとくに配慮する、③本人の希望を特に尊重する、④継続的に教育できる職場や人的に余裕のある職場に配置する、⑤疲労の負担軽減を図る(交替制職場や残業の多い職場への配置を避ける等)等がある」。
  そして、この調査研究では障害者の雇用管理のなかでも勤務日や勤務時間等の「労働条件の弾力化」に焦点をあてており、勤務時間での主な配慮事項として通勤、出・退勤、交替制勤務、超勤、通院等について調査している。その具体的対応としては「通勤に無理のない職場に配置する。ラッシュ時を避けての通勤を認める。通勤バスを運行する。障害者の状況に応じて出勤時問、退勤時間、出勤日を調整する。それには、通勤事情や通院による勤務時間の変更、短縮あるいは振替出勤等がある。交替制勤務は、障害者の体力、疲労度等を考慮して適用しない。通院は、優先的に配慮する。超勤は、できる限り抑制する等である」ことを明らかにしている。
  2つは、精神薄弱者に注目した調査研究である。大企業の障害者雇用のなかで、とくに精神薄弱者の雇用が遅れていることは、前述の飯田橋公共職業安定所の調査からも明らかである。平野文彦ほか[1991]は、大企業を中心にした16社(業種及び地域は網羅的)の事例研究である。その結果、大企業において精神薄弱者を「雇用していない」「雇用できない」、あるいは「適応職種がない」「就業職場の確保が困難である」とする理由を10の阻害要因としてまとめている(表9)。これは、精神薄弱者だけでなく、重度障害者の雇用についてもあてはまることが多いと思われる。
  その10の阻害要因は、「作業内容に関する制約」「雇用管理面での制約」「事業所を取り巻く条件からの制約」「精神薄弱者に対する理解不足に基づく制約」の4つに大きく分けている。そこでは、企業の雇用管理面の制約だけでなく、事業内容や企業をとりまく社会的環境の側面からも把握しているのが大きな特徴である。
  雇用管理面での制約についてもう少し詳しくみると、10の阻害要因のうち表中の⑥は、精神薄弱者の雇用を専門的に扱う担当者が育成されていないことや精神薄弱者に対する教育体制の未整備などのことである。これについては、大企業従業員の雇用・処遇制度のなかに、精薄者の雇用を阻害する要因があるとし、「企業の中で実際に精薄者を扱う専門的担当者の処遇が疎かにされていることが多かった。誰にでもできるという性格の仕事ではなく、専門的知識と深い教養と寛い人間性を持ち合せた人が携わる仕事であることを認め、それなりの処遇が行われ、プライドやモラールを維持できる体制を形成していくことが重要である」としている。
  表中の⑦については、採用したからには「障害者と健常者とは同じ扱いを基本とする」という雇用・処遇制度の基本から派生する問題である。その事例として、「(精神薄弱者も)一般従業員と同じ賃金を払うので、待遇に耐えるだけの仕事がしてもらえるかどうか。パートでいい。単純繰り返しの仕事でいいから労働力が欲しいという考えに立てば別であるが、入社した以上は一般従業員と同じ待遇をして、それだけのペイを払う。その代わりにそれだけの仕事をしてもらわねばならないというのが当社の考え方である。それなりの能力を発揮してもらえる職場があるかどうか」(機械組立/大企業)をあげている。また、「いわゆる<能力主義管理>の浸透が精薄者の雇用にとって阻害要因となっている面がある。一般に<能力主義管理>の方向が強まっているなかで、小売業のなかにもこの披が押し寄せている。特に大企業においては、この体制を採るところが顕著である。/地方の百貨店くL社>では高レベルの能力をもった従業員だけに絞っていこうとする、いわゆる<少数精鋭主義の方向>を打出している。そうした中では精薄者の入り込める余地がますます狭まりそうに思われる」としている。
  さらに、「企業が精薄者の雇用に慎重にならざるを得ない理由の1つに、<一旦抱え込むと、一生面倒を見ていかなければならない>というような固定的な雇用慣行がある。これについては、例えば、A.大企業・中小企業における実習と一般雇用、B.福祉工場における保護雇用、C・生産施設における収容と保護、D.ケア施設、という4つの連携システムを組み立てるなど、精薄者と企業に対する総合的援助システムの確立が必要である」としている。
  これらの調査結果は、これまでのいわゆる日本的雇用慣行が、精神薄弱者や重度障害者を雇用するにあたっていろいろな問題を生じさせてきていることを示唆している。
  また、田村剛ほか[1989]でも精神薄弱者の雇用をとりあげている。16社の事例調査から、精神薄弱者を雇用している企業では、一般求職者の場合には「職場適応訓練」、新卒者の場合には「職場実習」が、精神薄弱者の理解に効果をあげていること、また、雇用管理の面では、本人の特性をみて社内で適職を見いだすことが一般的で、雇用優先の考え方が貫かれていること、従事している職務はばとんどの場合、単純作業で技術革新・合理化・機械化などにより就労可能な職場が減少しており、雇用への影響が懸念される、としている。また、採用後の組織的な教育・訓練体制もできていないことなども明らかにしている。
  3つは、大企業の障害者のなかには多くいる入社後に障害をもった中途障害者を扱った調査研究である。三宅章介ほか[1989]では、218人(88社)の中途障害者に対する個人アンケート調査から、サンプル数が少ないという制約はあるが、重度障害者ほど年齢が若く、受障後の進路では「職種が変ってもよいから、同一の会社にいたかった」と希望する人が多くいたこと、そして、実際にも会社や職種を変らなかった人が60%と多くいることを明らかにしている。また、同一職種についている人の割合が高い職業は事務的職業であること、なども明らかにしている。
  4つほ、障害者のこれからの雇用分野として期待されている第3次産業に焦点をあてた調査研究である。現在、この分野が期待されているのは2つの意味がある。1つは法定雇用率が製造業に比べ低く、未達成企業の割合が大きいことである。もう1つは、これからの産業構造の変化のなかで雇用量の拡大が見込まれているからである。第3次産業のなかでも流通(商業)に焦点をあてた調査研究が笹島芳雄ほか[1989]、佐伯浩治ほか[1993年]である。この2つの調査研究とも事業所あるいは本社を対象とした郵送アンケート調査を実施している。
  笹島芳雄ほか[1989]では、集計対象となった企業に雇用されている障害者総数のうち、2/3は500人以上規模の大企業に雇用されていること、精神薄弱者の比率はきわめて低いこと、また、2/3が正社員、1/3がパート嘱託であることなどを明らかにしている。そして、就労職種の多い順は事務、商品の整理・選別・加工・運搬等、対人接客業務、管理職であり、この点に関しては従業員規模問で大きな差異はみられないこと、商品の整理・選別・加工・運搬等でパート嘱託が多いこと、などを明らかにしている。
  また、佐伯浩治はか[1993年]の本社調査では、集計対象となった107社に雇用されている障害者総数の障害種類別内訳では下肢障害者が29%でもっとも多く、ついで上肢障害者者18%、「その他の肢体不自由者」17%、聴覚・言語障害者12%、内部障害者は11%、精神薄弱者8%、視覚障害者6%の順であったこと、また、職務内容ではもっとも多いのが事務業務の24%、ついで売場業務22%、後方業務14%、商品管理業務11%、製造業務7%、物流センター7%の順で多く、これ以外の保安業務、管理職、配送業務、案内業務などはいずれも5%以下と少ないこと、そして、障害者の雇用形態では、正社員が52%であること、などを明らかにしている。
  5つは、障害者雇用に対する労働組合の対応についての調査研究である。大企業の障害者雇用を促進する上で労働組合の役割は大きく期待されている。3)この労働組合のユニオン・リーダーの職場における障害者雇用の実態や意見を、連合傘下の主要単組・支部に対するアンケート調査(集計対象組合数は362、うち公務が31)をもとにまとめたのが、奥田健二ほか[1993]である。その調査結果によると、障害者雇用への組合の対応では、「障害者雇用にあたっての労使の話し合い」がある、と回答したのは調査対象全体の43%であること、また、「労働協約・協定等の中に障害者雇用関係のものが含まれている」と回答したのは8%、「障害者の待遇改善について、組合が窓口となり直接対応している」と回答したのは16%、など労働組合の対応が消極的であることを明らかにしている。
3 課題の限定
  今回の調査研究では、調査対象を大企業とその関連会社である特例子会社に限定する。それは、日本の労働市場のなかで常用的雇用、とくに大企業の常用雇用が量及び質の両面で重要な役割を果たしており、障害者雇用割当制度(=身体障害者雇用率制度)の影響を大きく受けているとみているからである。それは、いくつかの調査からも確認できる。
  厚生省[1993、1992]の2つの調査によると、現在、障害者労働市場の就業者のなかでは雇用者が最も多く、雇用者に限定すれば身体障害者と精神薄弱者をあわせその総数は43万6千人である。このなかには臨時雇や日雇などの非常用的雇用者が含まれているので、それを除き常用雇用障害者に限定すると日本全体で26万8千人となる。他方、現在の「身体障害者雇用率制度」では常用雇用者数63人以上の企業が対象となるが、そこの企業に雇用されている身体障害者及び精神薄弱者(以下、障害者という)の常用雇用者数は「障害者雇用状況調査」[労働省・目障協1993]によると、93年6月時点で民間企業だけで18万7千人である。そして、この「障害者雇用状況調査」が把握している常用雇用障害者数は、日本全体の常用雇用障害者総数の約70%にも達している。つまり、日本全体の常用障害雇用者のなかで、身体障害者雇用率制度の影響を直接うけている障害者が2/3以上を占めていることを示している。
  就業ではなく雇用、とくに常用的雇用に着目すると、現在、大企業が果たしている役割は量的にみても大きい。従業員規模300人以上を大企業とすると、それらの企業に雇用されている障害者数は前述の「障害者雇用状況調査」からみると11万7千人で、前述した常用雇用障害者全体(26万8千人)の43.7%である。同様に従業員規模1,000人以上を大企業とすると、そこの障害者数は7万8千人で、その比率は29.1%である。また、身体障害者雇用率制度の対象となる従業員規模63人以上の企業に雇用されている常用雇用障害者総数18万7千人に限定すると、従業員規模300人以上の雇用者は62.4%、1,000人以上は41.8%を占めている。
  現在、このように大企業が障害者雇用ではたしている役割は大きいのであるが、身体障害者雇用率の実績値は全体で1,41%(93年6月)で、大規模企業ほどその比率は低く、1,000人以上規模では1.30である。また、身体障害者雇用率の未達成企業が大規模企業ほど高く、1,000人以上規模では78%(93年6月)にも達していることにも注目すべきであろう。それは、大企業のなかで企業間の障害者雇用格差があることを示唆しており、身体障害者雇用率制度の基本理念でもある「各事業主の社会的連帯」という点からも問題がある。つまり、現在の大企業の障害者雇用での貢献が一部の企業の努力に大きく依存している可能性が大きいことを示してからである。
  しかし、雇用の量的側面だけでなく質的側面でも大企業が期待されている役割は大きい。それは大企業の場合、大規模組織ということもあり障害者を受入れる制度あるいはシステムの導入・変革がないと障害者雇用が進まないので、障害者雇用に対する企業行動はそれ自身が有力な社会システムを示していることにもなる。その意味からも大企業の障害者雇用に対するとりくみやその結果が、社会全体に与える影響は大きいといえる。それは、長期的雇用を前提として「柔軟な職務配置」や「年功的賃金」を特徴とする日本的雇用慣行が大企業のみならず、中小企業でもコアの従業員にはあてはまることをみても明らかである。大企業の場合、障害者雇用にあたってこうした制度やシステムの導入・変革をともなうことが、障害者雇用を困難にして身体障害者雇用率の未達成企業の割合を高くしているともいえる。短期間での転換は困難であり、障害者雇用に対する計画的、段階的とりくみ、新たなシステムの構築が必要となるであろう。
  また、大企業において本体組織での障害者雇用とは異なる、もう1つの障害者雇用方式がある。これは身体障害者雇用率を改善するため、特例子会社を設立して障害者雇用を拡大しようとする対応である。今回の調査では、大企業本体組織での雇用ばかりでなく、この特例子会社にも注目することにした。特例子会社による障害者雇用の方式についてはいろいろな評価がある。すなわち、特例子会社方式による障害者雇用は、特別に障害を配慮した工場の設立(施設・設備などの設置・改善)や雇用管理の工夫などを通して、障害者の雇用拡大や能力の活用がより一層はかられるという見方がある一方で、健常者と障害者が一緒の場で働くというノーマライゼーションの理念からみると問題があるという両方の見方がある。
  この特例子会社制度は1976年の身体障害者雇用促進法の改正時に、労働省職業安定局通達によって認められ、87年の同法の改正によって、その要件などが明記されるようになった。その要件としては、親会社と子会社が経済的、組織的にも単一の企業体としての実態をもつこと、いわゆる親会社の資本金出資が50%以上であること、子会社の役員の1名以上、従業員の相当数が親会社から派遣されていること、親会社から子会社への発注が年間売上額(生産額)の50%以上であること、子会社の常用雇用障害者が30%以上であること、などである。この要件を満たす子会社が特例子会社で、そこの障害者雇用者数はいわゆる親企業の本体組織の障害者雇月]とみなされ、障害者雇用者総数にカウントされる。この特例子会社の設立にあたっては、地方公共団体と民間企業が資本を共同で出資する第3セクター方式による重度障害者雇用企業もある。こうした特例子会社方式による障害者雇用の拡大は、大企業の対応の有力な1つの方法であるが、いわゆる親企業にとっては、経済的負担が大幅に軽減されるとは必ずしもいえないであろう。むしろ、親企業におけるいわゆる日本的雇用慣行が、この方式をうみだしてきている側面が強いように思われる。
  現在、企業社会で障害者と健常者が共生できる新しい雇用システムが求められてともいえる。それは、これまでの日本的雇用慣行の大幅な修正をともなうことになろう。ここでは障害者の就業・雇用システムのいわば日本型の説明モデルをつくる第1歩として、まず、割当雇用制度(=身体障害者雇用率制度)下で大企業おける障害者雇用の拡大、雇用維持の実態がどういう条件で成立しているのかを解明することが基本的課題となる。今回の調査研究では、資源の制約もあり以下の4つのことを解明することが貝体的課題となろう。
  第1は、企業組織単位でみた障害者雇用の量及び質の把握である。雇用量に関しては、雇用率を含めその動向を、質的側面については、障害の種類や程度、さらに入社後に障害をもった中途障害者のウイエトが重要となろう。
  第2は、本体組織での雇用の具体的内容で、どのような募集・採用活動をしているのか、また、どのような雇用形態が多いのか、さらに、どのような部門および職務に配置しているのかを明らかにする。ここでは職務配置の範囲や内容が重要となろう。
  第3は、障害者雇用拡大のために、企業内の雇用支援システムとしてどのようなものをつくっているのかを明らかにする。日本では障害者雇用支援システムが、障害者個人に対して直接的に適用されることよりも、障害者を雇用する企業に対する支援が多く、企業内の雇用支援システムに注目することがとくに重要である。ここでは、企業の障害者雇用担当組織や担当者と、本社人事部と障害者を実際に受入れる製造・事務などの現場部門との関係が重要となろう。
  第4は、障害者雇用を本体組織で行っているのか、また、特例子会社方式を活用しているのかを明らかにすることである。特例子会社での雇用方式をとっている場合、その理由は何か、親企業との関係や子会社での雇用は本体組織での雇用と何が異なるのかを明らかにする。
4 調査の方法と対象
  前述の調査研究の課題を明らかにするために、今回の調査研究では事例研究の方法をとることにした。調査対象は従業員規模1,000人以上の大企業であるが、その特例子会社にもとくに注目して調査対象とした。いわゆる親企業の業種としては、経営及び組織環境の異なる製造業と第3次産業のなかから選び、前者では機械、鉄鋼、後者では小売、卸売、保険、専門サービスなどの企業を対象とした。そして、その枠組のなかで障害者雇用に積極的なとりくみをしている企業を14社選び、93年2月~94年3月の期間に企業訪問インタビュー調査を実施した。インアビューの対象者ほ、人事担当者、社長あるいは部長(特例子会社)である。なお、このなかの2社については当センター雇用開発研究担当の「障害者就業動向研究会」(主査:一橋大学教授高田一夫)でヒアリングを実施した。
  本書では調査対象となった企業のうち10社についてとりあげている。社名は英文字で表記しているが、A社~F社は本社の人事担当者、R社(親企業はG社)、S社(同・H社)、T社(同・Ⅰ社)、U社(同・J社)は、特例子会社の社長あるいは部長を対象としたインタビュー調査を実施、親企業の調査は実施していない。なお、調査対象企業と本報告書での扱いの関係については、参考表を参照されたい。
  インタビュー調査の項目は、以下の通りである。①障害者の雇用量(雇用率の推移、常用雇用障害者数、障害の種類・程度、中途障害者、募集・採用など)、②障害者の職務配置(雇用形態、配置部門・職務、昇進・配置転換、勤務時間、賃金など)、③企業における障害者雇用支援システム(障害者雇用担当組織、本社人事と製造・事務などの現場部門との関係、職場の障害者支援施策など)、④特例子会社(有無、設立の経過、業務内容と雇用、親企業との関係など)⑤これからの障害者雇用の課題、意見など

目 次

序 課題と方法

Ⅰ 製造業における本体組織での障害者雇用

第1章 A社の障害者雇用と支援システム

第2章 B社の障害者雇用と支援システム

第3章 C社の障害者雇用と支援システム

Ⅱ 流通業における本体組織での障害者雇用

第1章 E社の障害者雇用と支援システム

第2章 F社の障害者雇用と支援システム

Ⅲ 特例子会社方式での障害者雇用

第1章 D社の障害者雇用と支援システム

第2章 R社の障害者雇用と支援システム

第3章 S社の障害者雇用と支援システム

第4章 T社の障害者雇用と支援システム

第5章 U社の障害者雇用と支援システム

結論

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