障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.12

障害者労働市場の研究(2)

執筆担当者

佐々木 昌秀 障害者職業総合センター 雇用開発研究担当 統括研究員 (序章、あとがき)
  (現:国立吉備高原職業リハビリテーション所長)  
高田  一夫 一橋大学 社会学部 教授 (第1章)
森    隆男 中京学院大学 経営学部 助教授 (第2章)
下山  昭夫 淑徳大学 社会学部 助教授 (第3章)
澤邊 みさ子 障害者職業総合センター 雇用開発研究担当 研究協力員 (第4章)
大曽根  寛 愛知県立大学 文学部 助教授 (第5章)
工藤   正 障害者職業総合センター 雇用開発研究担当 主任研究員 (第6章、あとがき、概要)

(概要)

  本書は、「障害者の就業実態と職業領域の拡大に関する基礎的研究」のため設置した「障害者就業動向研究会」(座長:一橋大学教授高田一夫)の研究成果であり、昨年度に刊行した『障害者労働市場の研究(1)』の続編である。
  第1章では、障害者雇用の基本的問題を社会システムの再分配機能からとらえ、理論的考察を加えた論文である。組織はルール(規範)によって秩序だてられ、集団と区別される。そして、組織内部の人間は、そのルールによって仲間で相互に助け合う存在である。これに対して、市場では等価交換が原則で、互いに対等である反面、助け合いの要素は少なくなる。しかし、社会は市場経済の原理だけで成立せず、助け合いの要素が国家をっくりだした。現代経済学では、国家が組織の第1次的分配のあに分配をし直すことを再分配といい、社会政策はこの再分配活動であるとしている。この再分配は、直接的な助け合いほど共同的ではないが、さりとて等価交換はどドライではない。現代国家は再分配の制度を大規模につくりだしており、障害者雇用制度も、再分配の一環とみることができる。
  この再配分の基本的便益はノーマライゼーションであり、その目標は障害者雇用の拡大や自立の支援である。とくに職業に関するノーマライゼーションは重要であり、その背景には、労働が生活の資を得るという目的を持つ以外に、人間の本源的欲求である活動の具体化であること、また、人間は社会のなかではじめて人間になること、この二つの視点が含まれている。しかし、便益の要素には金銭換算ができるものとできないものが混在している。それは、社会システムが、生産と分配を効率的に行う経済システムとその運営に必要となる様々な意思決定やルール(規範)をつくる政治システムという相互に通分できない(優先順位を考えることばできるが)システムから成り立ち、後者のルールの単位は正義(当為)であるため貨幣による評価ができないこととも関連しているからである。そのため、便益と費用(コスト)を単純に合計してプラスやマイナスの効果を測定して結論をだすことはできないが、便益を一定としてそれを得るための様々な方法ごとに費用を推計することは可能であろう。
  障害者雇用のコストを適正水準に抑えるためには、障害者の労働能力を高めることが必要である。そのため、教育訓練(職業リハビリテーションを含む)とともに設備。機器の改善、人事管理上の工夫、さらには拡大している第3次産業での障害者雇用の工夫などが必要である。また、障害者を雇用する企業とそうでない企業とを比べればコスト負担の差は大きい。日本の法定雇用率制度下にある「納付金制度」は、その企業負担の平等化をはかるために機能している。また、アメリカの障害者政策をみると70年代半ば以降、就業を促進するように所得保障政策が大きく変化している。そして、90年のADA(障害をもつアメリカ人法)では形式的に障害者の雇用差別を禁止するだけでなく、差別を除去するため企業に対して「適当な配慮」(reasonableaccomodかtion)などの積極的な施策の実施を規定して、企業の負担を増加させてきている。
  障害者を対象とした教育訓練の結果、健常者の水準に達しない場合には、保護雇用が必要となる。その道営コストは成果を上回るので、何らかの助成が必要となるが、運営コストについては一定の制限を設け、創意工夫によって収益を大きくするようなインセンティブを与える仕組みが必要となろう。障害者が雇用されない場合には、障害者の家計の維持は難しく、そのため生活保護を受けるか、家族の援助を受けることになるが、その家計を支えるのは企業利潤か家計所得(主に給与)である。そのコストをだれがどのように負担していくのかが問題であるが、企業にとっては障害者を雇用しても雇用しなくてもコストを負担するのであり、障害者雇用を促進すると企業の負担が過大になるというのは誤っている。
  第2章では、障害者の所得保障=直接的な金銭給付について論じている。従来は、障害をもつ人を自立する主体としてでなく保護の対象としてとらえ、所得保障よりも施設福祉に重点がおかれてきた。ノーマライゼーション思想の普及とともに、障害者の「自立と社会参加」が重視され、新しい「自立」の概念では、「生活保護や福祉サービスを受けないですむようになることを意味する」のではなく、「生活保護や福祉サービスを利用しながら地域社会の中で主体的な自己実現を図っていく」ものへと大きく変化してきている。
  社会保障制度としての所得保障の仕組みは三つある。第1は、障害厚生年金など、保険料などの拠出に基づいて支給される社会保険で、防貧機能をもっものである。第2は、生活保護で、拠出とは関係なく生活の必要に応じて給付される公的扶助であり、最低生活水準の維持、救貧機能をもっている。第3は、両者の中間に位置づけられるいわゆる社会扶助である。これは、拠出とは関係なく支給されるものであり、公的扶助に付随する厳しい収入チェックやミーンズテストがなく、かなり普遍性をもって支給されるものである。障害基礎年金や特別障害者手当をはじめとする地方自治体の各種手当などがこれに該当する。
  この三つうち、理想的には給付水準がある程度保障される拠出制の障害年金によってカバーされることが望ましいが、現実にはそれで十分保障されない障害者がどうしても生じるので、公的扶助や社会扶助が必要となる。スティグマ(恥辱)を伴わない社会扶助を中心とした所得保障が、現在の障害者の「自律」の前提条件であり、重要な役割を果たしている。しかし、就労との関係では、障害基礎年金や諸手当を受給するための所得制限で問題が起こる。この所得制限は障害者の特別の費用負担を考慮して、就労インセンティブが損なわれないように再検討する余地がある。
  第3章では、入所よりも適所型が増加している授産施設や小規模作業所を「継続的就労の場」としての性格に注目し、現在かかえている問題を、とくに障害者福祉を支えている福祉マンパワーの視点から分析している。授産施設は生産機能をもつことで、他の社会福祉施設と大いに異なっている。福祉的就労を維持し、障害者への支払工賃を増額するには、企業等からの発注の確保、品質の維持、納期の遵守等の企業行動が求められおり、施設長等の幹部職員には、経営的資質や企業的運営、経営の近代化と機械・設備の改善、自主製品の開発等の課題がある。他方、職員・作業指導員にも作業指導能力の他に、営業能力等も求められる。
  小規模作業所は、措置費対象外の施設であるが、国、地方自治体から補助金が支給され、社会福祉的な就労支援活動をしており、就労面で大きな役割を担っている。その多くは職員を雇用し障害者の作業指導にあたっている。その点では、一般の社会福祉施設の姿と大きく変わることばないが、なかには職員を配置せず、その役割を親や障害者自身が果たしているものもある。小規模作業所は、授産施設のように措置費が補助金として支給されないため財政基盤も脆弱であり、そのため作業による収益確保の要求が高く、職員は、障害者の社会的援護活動の他に、作業指導の能力、受注の確保や取引先との交渉等の営業能力が必要となっている。
  他方、障害者の授産施設や作業所に対しては、「ともかく働く場」「規則正しい生活を支える場」「グループ活動の場」等、そのニーズは多様化している。これに対応するには、専門性をもった職員が必要となる。現在、社会福祉領域における国家資格としては、社会福祉士と介護福祉士があるが、前者は実質的にはソーシャルワーカー、後者は高齢者や障害者の介護の職につくものとして養成が目指されており、そこには授産施設等の経営や作業指導、職業リハビリテーションという視点がない。このため社会福祉の専門職養成課程では、大学等の学校教育場面を含めて、作業指導、職業指導や職業上の能力開発、施設経営の企業的発想等を扱う科目の設定が望まれる。
  第4章では、障害者雇用を支援する社会的サービス機関としての重要な役割を果たしている公共職業安定所をとりあげ、調査をする前の予備作業として実施した文書資料の検討を中心に、その機能と課題の整理をしている。障害者雇用を支援するサービスの提供機関。施設は、公共職業安定所以外にも障害者職業センターや職業訓練・能力開発機関、さらには最近スタートしたばかりの市町村レベルの障害者雇用支援センターなど、さまざまなものがある。それらの中で、公共職業安定所の業務は求職者の把握・登録、職業指導、職業紹介、就職後の指導、そして、求人開拓、事業主に対する雇用管理指導、障害者雇用率達成指導など、求職者と求人の双方に対するサービスの提供を通して職業リハビリテーションの全過程に関与しており、その意味で障害者と労働とを結びつける、職業リハビリテーションの重要な機関、役割を果たしているといえる。
  公共職業安定所のサービスは、広範なデータの収集・整理・提供体制の確立と障害者担当専門官(「障害者担当就職促進指導官」)の配置によって支えられている。しかし、障害をもつ求職者の増加や重度化、さらに障害者のニーズの多様化に対応するためには、職業リハビリテーションサービスに携わる福祉を含む関係機関との連携をさらに深め、そのなかで中心的役割を担うことが大きな課題としてある。そして、すでにこの課題に対応したものの一つとして、市町村レベルの障害者雇用支援センターの設立がある。
  なお、日本と同様に公共職業安定機関に障害者雇用専門官(DRO)が配置されているイギリスでは、その専門官の有効活用やPACT(地域単位の援助チーム)などの新しい試みが始まっている。
  第5章では、フランスにおける「新障害認定基準」(93年制定)をとりあげ、その導入の背景、「新基準」の性格、障害者雇用政策との関係を分析している。フランスの「障害者基本法」(75年)では、障害認定基準は用意されていなかった。その法によって設立された県特別教育委員会(CDES)と職業指導・職業再配置専門委員会(COTOREP)は、障害程度を認定する権限を一元的にもっていたが、1919年の傷痍軍人・戦争犠牲者年金法に基づいて制定された障害認定基準を借用する形式をとって、その判定の際のよりどころとしていたので限界があった。今回の「新基準」は、フランスの障害者政策全体を律するものではなく、CDESやCOTOREPのために制定されたものである。
  「新基準」の特徴としては、WHOの三つのレベルの障害一機能障害(インペアメント)、能力不全(ディスアビィリティ)、社会的不利(ハンディキャップ)-でみる哲学を、できる限り実務に応用できるように配慮していることである。つまり、病理学的診断による障害の評価を超えて、人の生活関係を全体的にとらえようとしている。しかし、「新基準」ではこれらをすべて取り入れたわけではない。社会的不利の概念は、機能不全や能力不全によって評価した場合よりもかえって障害認定を軽くする可能性があるので、採用していない。また、視覚障害と聴覚。言語障害については能力不全の概念は採用されず、機能不全の基準だけで評価されている。もう一つの特徴は、障害としてイメージされる範囲が広範で、児童、知的障害を含み、内部障害のほとんどをカバーしていることである。
  フランスでは障害程度をパーセントで表示する伝統があるが、この「新基準」を使用しても自動的・機械的に障害程度が決定されるわけではなく、CDESやCOTOREPに大幅な裁量権が残されており、その意味では「新基準」は正確には認定の目安といえる。また、COTOREPは、労働能力をもつ障害者の進路指導を所管し、労働・雇用政策と直結している第1部と所得保障・社会福祉政策と連結している第2部の二つで構成されているが、「新基準」は第2部の基準であって第1部のために用意されたものでないことに留意すべきである。しかし、「新基準」の実施が、文書による医学的診断を基礎とする障害認定から、面接を含めより福祉的、社会的側面を重視する評価へと変化をすすめてきていることと、今後、COTOREPの第1部に与える影響が注目される。
  第6章では、EC諸国のなかのイギリス、ドイツ(旧西ドイツ)、フランスの3カ国をとりあげ、EC刊行『障害者の統計データ集』(91~92年)を利用して、障害者の雇用・就業関連の統計データを中心に整理、分析をしている。ここでは、障害者の就業・雇用、職業リハビリテーションと関連する労働年齢(国やデータによって多少異なるが16~64歳)の障害者総数、就業。失業状態の把握に焦点をあてている。
  労働年齢の障害者の就業者数は、イギリスでは85年の「成人障害者調査」で66万人、障害者総数193万人に占める就業者の比率(=障害者就業率)は34.2%、89年の「職業生活障害者調査」で99万人、障害者総数285万人に対する就業率は34.7%であった。ドイツでは、87年の「重度障害者調査」で就業者は85万人、障害者総数272万人に対する就業率は31.3%であった。
  労働市場の一般的競争環境での雇用。就業に適さない障害者のために保護された環境で雇用・就業することを保護的就業(あるいは保護的就労)というが、この保護的就業は、一般的雇用へ向かう準備過程としての職業リハビリテーションの一つとして位置づけることができる。この領域での就業の把握は、「保護工場」の就業者とデイ・アクティビティを実施している収容施設や病院を含むデイ・センターのクライアントとの区別が困難であることもあって非常に難しいが、障害者労働市場の研究では無視できない。限界はあるが統計データによって把握された保護的就業者総数は、イギリスが90年に1万4千人(うち、レンプロイ公社が9千人)、ドイツが89年に11万4千人、フランスが87年に7万4千人であった。そして、イギリスやドイツと比べ、フランスでは多様なタイプの施設があることを明らかにしている。

目 次

概要

序章

第1章 社会システムと障害者雇用

第2章 障害者の所得保障

第3章 障害者の福祉的就労

第4章 障害者雇用政策における公共職業安定所の役割と課題

第5章 フランスにおける新障害認定基準と障害者雇用

第6章 EC諸国における障害者の就業・雇用関連統計

あとがき

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