障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.30

難病等慢性疾患者の就労実態と就労支援の課題

執筆担当者

春名 由一郎 障害者職業総合センター研究員

(概要)

1.目的と方法
 1993年の障害者基本法成立の際の付帯決議で、難病に起因する身体・精神障害を有し、長期にわたる生活上の支障のあるものが、基本法にいう障害者の範囲に含まれることとされた。しかし、「難病」の定義、及び、「長期にわたる生活上の支障」の定義はあいまいであり、職業上の問題の把握、雇用上必要な具体的な対策のあり方について、基礎的かつ、現実の問題に対応した検討が必要となった。 本研究は、いわゆる難病及び、慢性疾患をもつ者の職業的困難性と必要な対策について、世界保健機構(WHO)の国際障害分類の障害モデルを基に検討することを目的とした。
2.方法

(1)対象疾患 難病として、厚生省の難病対策の対象となっている、治療研究事業(40疾患)の特定疾患を中心として、調査研究事業対象(118疾患)の特定疾患の一部、及び、小児慢性特定疾患(10種類)、身体障害者福祉法による「更生医療」対象の内部障害者、児童福祉法による「育成医療」対象疾患、及び進行性筋萎縮症などについてもその一部を対象とした。また、一般の慢性疾患として、肝臓病、腎臓病、心臓病、糖尿病、消化器疾患、呼吸器疾患を対象とした。

(2)検討方法 障害モデルに基づいて、職業的障害を、①疾患による機能障害と個々の職業との組み合わせにより生起する多様性の大きい個人レベルの職業的能力低下及びそれに起因する就労機会の制限、及び、②慢性疾患一般に十分に適応しえていない社会環境に起因する慢性疾患一般に共通する困難性に分けて、それぞれを異なったアプローチで検討した。
 ①の難病等慢性疾患者の職務適合性と就労可能性の問題に対しては、各疾患による機能障害と疾患管理上の行動制限の観点から、医療及び看護分野の先行研究を再構成することにより疾患特性データベースを作成し、12,741種類の職業の職務要件のデータベース、及び、我が国の就業人口構造データを用いて、障害の代償可能性を考慮に入れたコンピュータ・シミュレーションを行い、職業と疾患の様々な組み合わせにおける代償対策の必要性の程度を明らかにし、また、我が国における就労機会の制限の程度を明らかにすることとした(第Ⅱ部)。
 ②の慢性疾患一般に共通する職業的困難性の問題に対しては、患者団体との協力により患者への実態調査を実施し把握することとした(第Ⅲ部)。

3.結果

(1)シミュレーションの結果
 ア 難病等慢性疾患者の疾患による就労機会の制限は、特定疾患の指定に関わらず、一部の非常に重症なものと反対に障害のない疾患を除いて、現行の身体障害者とほぼ同程度の範囲に広がっていた。

 イ 難病等慢性疾患による個別の職業的能力への影響は、現行の身体障害認定や知的障害や精神障害の範囲の機能障害によるものもあるが、それ以外に、易疲労性、感染しやすさ等の機能障害及び疾患管理上の行動制限等による影響があり、機能障害の評価項目を現行より拡大する必要がある。

 ウ 難病等慢性疾患者の個別の職業能力は、就労する職業や通勤等の事情によるため、適切な職業紹介や職場配置が可能である場合には、実際の職業上の配慮は必要でない場合がある。一方、特定の職業への就労にあたっては、疾患による職業能力への影響を除去するために、様々な程度の代償対策や配慮が必要となる。

(2)実態調査の結果
 ア 対象疾患及び回答数:全体で1,143名(回収率:44.4%)  クローン病の282名をはじめとして、神経繊維腫症、肝臓病、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、進行性筋ジストロフィー、糖尿病、ウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病)、強直性脊椎炎、網膜色素変性症、スモン、ベーチェット病、先天性骨形成不全症(先天性代謝異常)が30名以上の回収を得た。その他、表皮水疱症、特発性血小板減少性紫斑病、先天性免疫不全症候群、大動脈炎症候群、進行性筋ジストロフィー以外の筋萎縮性疾患(ただし、筋萎縮性側索硬化症はなし)、後縦靱帯骨化症、バージャー病、再生不良性貧血、ミトコンドリア脳筋症、脊髄小脳変性症について、複数の回答を得、さらに、その他11種類の疾患についてはそれぞれ1名からの回答が得られた。

 イ 失業率は10.8%、雇用失業率は14.0%、潜在失業率は21.3%  調査回答者のうち雇用は45.5%、自営・福祉的就労が15.3%、求職者は7.4%、潜在的求職者は9.0%、就労非希望者又は医師から就労を禁止されている者は22.8%であった。疾患によって、この構成は異なり、潜在的失業率で見ると比較的低い神経繊維腫症の13.3%から、比較的高いウィリス動脈輪閉塞症の41.3%まで幅があった。また、就業者の57.9%が正社員での雇用、パートが9.3%、アルバイトが6.4%、自営業が16.4%、福祉的就労が2.7%であった。この構成には疾患だけでなく、性、年齢等が関係した。

 ウ 就労経験者で病気の影響により退職した者は47.7%、そのうち55.9%は無職のまま  就労経験者のうち配置転換によって就労継続していたものは7.3%であった。退職した者の44.1%は再就職していたが、その27.8%は2年以上後の再就職であった。病気が影響しなかった者が比較的多かった表皮水疱症や糖尿病では65%以上が影響がなかったが、一方、多発性硬化症では20.5%に過ぎなかった。

 エ 身体障害者手帳受給は、疾患により≒0%から100%まで様々  進行性筋萎縮症、先天性骨形成不全症、スモンではほぼ全員が身体障害者手帳の1級、2級の認定を受けていた。一方、肝臓病、糖尿病、潰瘍性大腸炎などは身体障害者認定を受けている者はほとんどなかった。その他の疾患では10%~50%強が手帳の支給を受けていた。

 オ 治療・通院に要する時間は疾患により、1週間平均で0時間から5時間程度が大半  治療・通院に要する時間を一週間平均に換算すると、各疾患別の中央値でみると、短いものでは網膜色素変性症、進行性筋萎縮症、神経繊維腫症、先天性骨形成不全症は0時間であった。一方、比較的長い疾患は、先天性免疫不全症候群の2.5時間や表皮水疱症、肝臓病、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎の2時間であった。現在、雇用では0.5時間が多く、自営や福祉的就労が1時間程度、求職中では1.5時間程度という影響が見られた。

 カ 症状の安定性は疾患により、100%が増悪傾向の疾患から、半数が軽快傾向のものまで多様  発病からの症状の変化では、進行性筋萎縮症、網膜色素変性症、神経繊維腫症で半数以上が増悪傾向と回答した。一方、特発性血小板減少性紫斑病、ウィリス動脈輪閉塞症、ベーチェット病などは軽快傾向が半数近くあった。しかし、大半は変化なし、軽快と増悪の繰り返しと答えたものが多かった。

 キ 就労者の自立感は高いが、職場での周囲の病気への理解は不足している  「障害や病気に関わらず同僚との関係は対等」や「仕事以外の雑用や人付き合いは自然」としたものは60%前後であった。一方、「障害や病気について周囲は正しく理解している」としたものは25%にすぎず、そうでないとしたものは45%であった。疾患の種類によって、疾病管理可能性、自立・対等感、設備の現状満足、の3つの側面での問題の存在には重点が異なった。

 ク 非就労者の非就労の理由は、適職が見つからないから53.5%、社会的理解不足37.2%  疾患種類によって、治療時間(多発性硬化症、先天性免疫不全症候群、潰瘍性大腸炎など)、通勤の困難性(表皮水疱症、進行性筋萎縮症、多発性硬化症など)などが非就労の大きな理由となるなどの違いはあったが、どの疾患でも適職が見つからないことがもっとも大きな非就労の理由であった。

 ケ 適職紹介の要望は就労者で63%、就労希望者で85%、公的助成の要望は就労者で54%、就労希望者で77%  就労のための支援で最も必要性が大きいとされた項目は、現在就労している者も就労を希望している者もともに「就業可能な適職や職場配置の紹介」であった。その他、「福祉的就労の場の増加や生活支援の充実」、「休暇や短時間勤務、フレックスタイムの整備」が両者に共通して高く、「設備の整備」は共通して比較的低かった。就労希望者では「事業主への雇用促進・継続のための公的助成金」も比較的高くなっていた。

 コ 事業主への病名告知は70.2%、周囲で誰も病気について知らない状況は16.0%  事業主への病名告知は正社員で最も高く75.0%であったが、パートやアルバイトでは50%台であった。病名を告知していない理由の66.1%は「必要がないから」であったが、「不当な扱いを受ける恐れがあるから」が26.1%あった。一方、病名告知者で「勤務状態等に配慮してもらえるようになった」ものは47.4%であり、「病名を告げてよかった」とするものは53.7%であった。

 サ 求職者の67.1%が公共職業安定所に相談し、役に立ったものは32.1%  現在就労している者では就労についての相談はどこにもしていない者が大半であり、最も多い相談先は医師であった。一方、現在求職中のものや過去に求職経験がある者の相談先は公共職業安定所が最も多かった。現在雇用されている者で公共職業安定所に相談したことがある21.5%のうち、役に立ったものは40.4%であったが、現在求職中のものや過去に求職経験がある者では30%前後であった。障害者職業センターの利用者は求職者で20%前後であり役に立ったものはやはり30%台であった。

4.結論と考察

(1)難病等慢性疾患の「障害」としての位置づけ
 ア 難病等慢性疾患者の個別の職業的能力は、就労する職業や通勤等の事情によるため、適切な職業紹介や職場配置が可能である場合には、実際の職業上の配慮は必要でなく、事業主に対しての病名や障害についての説明は必要がない。したがって、職業紹介専門機関内部での障害の特定だけが重要で、外部に適用する障害認定は必要でない場合がありうる。

 イ 一方、疾患によって就労する特定の職業において職業的障害があるものにたいしては、必要な対策を明らかにするために、疾患と就労する職業の組み合わせによってその職業的な困難性を認定する必要がある。これは必ずしも「障害」の名称で呼ばれる必要はなく、労働安全衛生法の規定上の何らかの措置の必要な者としての認定である可能性もある。

 ウ 患者の就労にとっての困難性に対する対策としては従来の障害者雇用対策との共通点が大きいことにより、中途発病による復職可能性の検討、健康診断等による職務遂行上の障害に対する必要な措置の検討において、障害者雇用促進法に準じた職業リハビリテーションの提供や事業主の負担の助成などが有効である可能性がある。

 エ 一方、通勤、生活環境等に起因する障害については、事業所側への対策と、必ずしも事業所との関係を前提としない患者に属する対策の側面があり、社会的環境整備における対策とも連携して障害状況について把握し、対策を進める必要がある。

(2)就労管理のあり方について
 難病等慢性疾患者の就労にあたっては一般に、①疾病管理の可能性、②自立・対等感、③障害への代償対策、の3点に着目し、疾患の特性に応じて就労環境を点検/改善する必要がある。

(3)保健医療福祉と雇用の関係機関の連携について
 医療機関、保健所、福祉事務所、ソーシャルワーカー、公共職業安定所、障害者職業センター、事業所、作業所や福祉工場などの関係機関の間の連携の際、就労者の立場からの医療制度の見直し、患者の情報の秘密管理などが重要となる。この場合、職場での患者や障害者の存在に関わらない、安全対策の充実の重要性が高まる。また、医療と企業の中間にあって高度な専門性をもった障害者職業センターなどの役割が期待される。また、患者への関係機関のサービスについての情報提供が重要である。

(4)生活保障と雇用保障の統合について
 単に介護を要しない身辺自立の状況と、職業的・経済的自立の状況は異なるため、後者の意味での自立状況に応じた福祉的保障と雇用保障の統合が患者の立場から必要であると考えられる。

目 次

第I部 難病等慢性疾患の障害としての側面

第Ⅱ部 難病等慢性疾患者の職務適合性と就労可能性

第Ⅲ部 難病等慢性疾患者の就労実態

第Ⅳ部 総括論議と結論

付録

参考資料

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第I部・第Ⅱ部・第Ⅲ部・第Ⅳ部 (PDF 1,016KB)

参考資料 (PDF 645KB)

付録

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