障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.31

障害者の加齢に伴う職業能力の変化に関する実態調査報告書 障害者の加齢に伴う職業能力の変化と対策に関する実証的研究報告書 1

執筆担当者

小畑 宣子 障害者職業総合センター統括研究員
春名由一郎 障害者職業総合センター研究員
田中 敦士 障害者職業総合センター研究員
望月 葉子 障害者職業総合センター研究員

(概要)

 本報告書は当センター・特性研究部門において平成7年度から5年計画で取り組んでいる特別研究「障害者の加齢に伴う職業能力の変化と対策に関する実証的研究」の一環として平成8年3月に実施した「障害者の加齢(=年をとること)に伴う職業能力の変化に関する実態調査」の基本集計結果および事業所訪問調査の結果をまとめたものである。  調査対象は、事業所調査については事業所調査については30 歳以上の障害者を雇用している事業所(7,073 社)の雇用管理者、個人調査では調査対象事業所に雇用されている35歳以上の障害をもつ従業員(6名以内)とした。有効回答数は事業所調査4,107社(回収率:58.1 %)、個人調査14,354 人(回収率33.8 %)であった。事業所訪問調査は、回答事業所の中から一定の方法により抽出した8 社に面接調査を行った。
1 事業所調査の結果

(1)加齢に伴う作業能力の低下の有無
 「加齢に伴う作業能力の低下がみられる障害者がいる(過去にいた)」とする事業所(以下、「問題有群」という)の割合は28.6 %であった。問題無群は、「40 歳以上の障害者がいても作業能力の低下はみられない」67.0 %、「まだ40 歳以上はいない」 3.8 %であった。問題有群の割合は、業種、障害の種類によって有意な偏りがみられ、業種別では農林水産業の 58.3 %から金融保険業の 9.1 %までの差があった。また、障障害種類別では平衡機能障害者を雇用している事業所の 29.9 %が最高となっており、一方最も低い音声言語障害者を雇用している事業所については10.3%であった。

(2)雇用管理者からみた普通に働ける年齢
 雇用管理者からみた普通に働ける年齢の上限を、同一職種の障害者と健常者で比較すると、問題有群では健常者に対して障害者が平均 5.4 歳低いのに対して、問題無群では平均 1.1 歳低いにとどまった。障害種類別にみると、問題有群では、知的障害者は同一職種の健常者よりも10.5 歳低く、身体障害者はおよそ身体障害者はおよそ4 歳程度低い差が認められた。また、問題無群でも精神障害回復者等や脳性まひ、知的障害者では同一職種の健常者よりも5歳程度低いという差が認められた。

(3)加齢による作業能力低下の原因
 「加齢により作業能力が低下する原因」としては、障害種類に関わらず、事業所の雇用管理者と障害者個人とも「力を使う仕事が段々無理になる」を多くあげた。また、事業所の雇用管理者と障害者個人では、加齢による作業能力の低下原因の認識が異なり、「作業の速度」、「持久力」、「機敏性」、「正確さ」、「仕事の変化への適応性」の低下、「休みが多くなる」などでは障害者個人に比べて事業所の回答が多くなり、一方、「目の機能が落ちてくる」、「夜勤や残業など無理がきかなくなる」、「記憶力・理解力が落ちてくる」、「足の機能が落ちてくる」、「健康面などに問題が出てくる」などでは、雇用管理者に比べて障害者個人の回答が多くなった。

(4)加齢対策としての事業所の配慮事項と障害者の要望事項
 加齢による作業能力の低下への対策として、障害者の要望と事業所の対応にかい離が認められた。障害種類に関わらず、障害者は「出勤日数・休暇への配慮」、「作業環境の改善」、「一日の労働時間短縮」の要望が多く、一方、事業所は「仕事内容の変更」、「仕事量の軽減」、「配置転換」を行っていたり、行いたいと考えていた。

(5)障害種類別にみた加齢による作業能力低下の原因と配慮事項
 上記(3),(4)に示された障害種類に関わらない一般的傾向との比較で、障害種類別の特徴をみると、視覚障害では「目の機能の低下」と「力をつかう作業が段々無理になる」、聴覚障害では「耳の機能の低下」、体幹機能障害では「手や腕の機能の低下」、心臓・じん臓・膀胱直腸機能障害では「持久力の低下」と「夜勤や残業、フルタイム労働が無理になる」、知的障害では「作業速度の低下」、精神障害回復者等では「仕事内容の変化への適応性の低下」といった障害特性と関連のある項目が作業能力低下の原因として他の障害種類より顕著に多くなっていた。また、配慮事項についても障害種類別の特徴が見出され、心臓・じん臓機能障害では「出勤日数・休暇への配慮」、呼吸器・膀胱・直腸機能障害では「仕事内容の調整」、知的障害では「指導員・補助者等の配置」が多くなっていた。

2 個人調査の結果

(1)障害者が回答した普通に働ける年齢
 働く障害者が回答した「普通に働ける」と考えている年齢は、平均58.6歳である。回答者の年齢が高くなるにつれて「普通に働ける」年齢も高くなる傾向がみられる。障害種類別にみると、知的障害、精神障害回復者等が「普通に働ける」と考えている年齢は、障害者全体の平均より4歳程度低い。

(2)加齢に伴う作業能力の低下の原因
 障害者が回答した加齢に伴う作業能力の低下の原因として、最も多いのは「力をつかう仕事が段々無理になる」(33.6%)、次いで「目の機能の低下」(30.5%)、「健康面の問題」(28.0%)である。障害種類別にみて最も多いのは、視覚障害では「目の機能」(42.4%)、聴覚言語障害では「健康面の問題」(36.5%)。肢体不自由では「目の機能の低下」(32.4%)、内部障害では「力をつかう仕事が段々無理になる」(41.5%)、知的障害では「作業速度の低下」(41.8%)、精神障害回復者等では「作業速度の低下」(32.6%)、である。

(3)疲労の自覚症状
 疲労の自覚症状として多いのは、「目が疲れる」(41.8%)、「肩がこる」(40.1%)、「体の一部が疲れる」(39.5%)である。障害種類別にみて最も多いのは、視覚障害と聴覚言語障害では「肩がこる」、肢体不自由と内部障害では「目が疲れる」、知的障害と精神障害回復者等では「体の一部が疲れる」、である。

(4)疲労の原因
 疲労の原因として多いのは、「人間関係」(22.7%)、「目を酷使する作業」(21.3%)、「重筋作業」(15.3%)である。障害種類別にみて最も多いのは、視覚障害、聴覚言語障害、精神障害回復者等では「人間関係」、肢体不自由、内部障害では「目を酷使する作業」、知的障害では「単純反復作業」、である。

(5)老化の自覚症状
 老化の自覚症状として多いのは、「体力的に無理がきかなくなった」(43.9%)、「老眼になった」(38.5%)、「足腰が弱くなった」(34.2%)であり、いずれの症状も45歳以上で高くなっている。

(6)長くは働くために希望する職場での配慮事項
 「長く働くために希望する配慮事項がある」と回答した者は全体では40.7%である。障害種類別にみると、聴覚言語障害51.6%、肢体不自由39.8%、内部障害39.8%、視覚障害37.1%,知的障害29.1%、精神障害回復者等28.8%、となっている。希望する配慮事項として多いのは、「出勤日数や休暇への配慮」(32.6%)、「作業環境の改善」(27.0%)、「仕事内容の調整」(25.7%)、「1日の労働時間短縮」(24.6%)である。

3 知的障害者の個人調査結果

 知的障害者については事業主等から加齢問題が提起されているので、知的障害者の個人調査結果からみた特徴的な点を以下でまとめておく。但し、知的障害者の個人調査票の回答者は、身体障害者に比較して、本人(13.8%)が少なく家族(22.3%)やその他(42.2%)が多いこと、また、自覚症状や配慮希望事項等の設問の回答比率も低い傾向がみられること、に留意する必要がある。

(1)仕事の特徴
 知的障害者は、45歳未満の占める割合が61.6%と高く、45~54歳31.5%、55歳以上5.6%となっている。従事している職種についてみると、「労務作業」(26.4%)、「技能工・生産工程作業(加工)」(26.2%)、「サービス職」(18.1%)の割合が高い。仕事の強度は「軽作業」(47.6%)、仕事の特徴は「反復作業」(77.0%)、作業形態は「流れ作業」(29.7%)と「一定の時間ペースに合わせる」(31.7%)、の割合が高い。作業環境は厳しい場所での仕事が「ときどきある」(36.1%)と「常時ある」(18.7%)者の割合が高く、「週休2日制が適用されている」者の割合(26.0%)は低い。

(2)作業能力低下の原因
 作業能力が低下する原因として、「作業速度の低下」(41.8%)、「力仕事が段々無理になる」(35.0%)、「健康面の問題」(23.5%)、「持久力の低下」(23.2%)、「機敏性の低下」(21.5%)をあげている。

(3)疲労の自覚症状
 知的障害者の疲労の自覚症状として最も多いのは「体の一部が疲れる」(33.8%)で、次いで「肩がこる」(28.2%) 、「筋肉が疲れる」(20.6%)、となっている。身体障害者より知的障害者で高いのは、、「注意力・集中力が低下した」(身体障害者14.9%,、知的障害者17.5%)、「作業に間違いが多くなった」(同3.3%、同10.5%)、「作業の速度についていけなくなった」(同4.5%、同10.5%)、である。

(4)疲労の原因
 知的障害の疲労の原因として、もっとも多いのは「単純反復作業」(24.5%)で、次いで「流れ作業」(18.1%)、「重筋作業」(15.1%)、「人間関係」(12.7%)、「高温/多湿での作業」(11.2%)、となっている。

(5)老化の自覚症状
 知的障害者の「老化の自覚症状」として、最も多いのは「体力的に無理がきかなくなった」(25.0%)で、次いで「足腰が弱くなった」(20.2%)、「皮膚や毛髪でそう思う」(15.3%)となっている。「体力的に無理がきかなくなった」は、45から55歳未満では30.9%、55歳以上では42.4%と高くなる。「老化の自覚がない」は、知的障害者(30.7%)では身体障害者(9.8%)より顕著に高い。

(6)健康維持のための対処
 「仕事の疲れをとったり自分の健康のためにしていることがある」は知的障害者(33.0%)では身体障害者(53.6%)より低い。身体障害者では、加齢に伴い高くなるが、知的障害者ではそのような傾向がみられない。

(7)長く働くために希望する職場での配慮事項
 「長く働くために希望する配慮がある」と回答した知的障害者の割合(29.1%)は、身体障害者(42.2%)より低い。知的障害者が長く働くために希望する職場での配慮事項として、「出勤日数や休暇への配慮」(31.9%)、次いで「作業環境の改善」(25.2%)、「1日の労働時間の短縮」(23.7%)、「仕事量をへらす」(23.7%)、「作業内容の調整」(20.2%)、「指導員・補助者の配置」(17.0%)、をあげている。

4 事業所訪問調査結果

(1)加齢に伴う作業能力の低下がみられる知的障害者が「いる」と回答した事業所の結果
 共通してあげられたのは、①作業能力に関係なく、入社後の指導に占める生活指導の比重が極めて高い、②雇用を継続する上で、困難になる要件は、「家庭の協力が得られない」、「本人に問題行動がある」、であった。「これが企業の役割なのだろうか」と思いつつ指導している状況があり、作業遂行そのものにかかわる指導の重点が、「作業の習熟」というよりは「労働習慣の確立」にならざるを得ない実状が明らかとなった。加えて、③労働意欲の低下を引き起こす場面が多いことがあげられた。

(2)加齢に伴う作業能力の低下がみられる知的障害者が「いない」と回答した事業所の結果
 共通してあげられたのは、①入社後の指導に占める生活指導の比重が低い、②雇用を継続するうえで困難になる要件は「特にない」、③知的障害者の生活面を支える機関との連携を持っている、であった。会社が生活面の指導に直接的・全面的にかかわることは少ない状況があり、作業遂行にかかわる指導の重点が「作業の習熟」そのものであるという実状が明らかとなった。

(3)加齢に関して検討すべき問題
 訪問調査からは、「知的障害者の作業能力の維持のための労務管理」について、①入職後の指導の重点を作業習熟におくことができる(日常の生活習慣確立に終始しない)、②意欲を喚起する作業工程を創出する、③生活自立をバックアップする機関と連携を持つ、があげられた。  「知的障害者の加齢による作業能力低下の問題」を検討する際には、「労働意欲の維持と関連が深い」という点に留意すべきである。しかし、「個人差が大きい」。さらに、こうした問題は、作業工程との関連(「能力低下を顕在化させないよう、作業工程を改善したか」、「もともとの生産形態の中に知的障害者を組み込んだか」)で検討すべきであることが明らかとなった。

5 今後の研究課題
 障害者の加齢に伴う職業能力への影響は、身体・精神機能の変化の程度、障害特性、職場環境、仕事量の調整や配置転換、雇用管理への配慮の有無当によって異なっている。本調査では、中高年障害者を雇用していても加齢に伴い作業能力の低下がみられない事業所が多数あったことから、まずは、このような事業所の取り組みを加齢問題のある事業所へ情報提供していく必要がある。そのためには、特に問題が多く指摘されている障害種類を中心に、問題が指摘される原因、障害特性と職場における配慮事項等についてさらに検討を深めていかなければならない。  今後の研究課題として、①加齢に伴う心身機能の変化と職業能力との関連の解明、②障害者を取り巻く環境条件(職場環境、社会環境)の改善、③障害者の労働意欲の維持と雇用管理の改善、④障害者の加齢問題に対する支援策の具体的検討、があげられる。  なお、本特別研究では、事業主から加齢に関する問題指摘が多い知的障害者の加齢と職業能力に関する研究を優先的な研究課題として取り組んでいる。また、本調査でも指摘されている助成制度等の政策的な支援については、さらに検討を加え具体的な提言としてまとめていくこととしている。

目 次

第1章 研究の目的と方法

第2章 事業所調査票の分析結果について

第3章 個人調査票の分析結果について

第4章 知的障害者に関する分析結果について

第5章 知的障害者雇用事業所の訪問調査結果について

第6章 自由記述の概要

第7章 総括と今後の研究課題

附属統計表
1 事業所調査票の集計結果
2 個人調査票の集計結果
3 事業所調査票の自由記述
4 個人調査票の自由記述
附属資料
1 「障害者の加齢に伴う職業能力の変化と対策に関する実証的研究」の研究計画
2 「障害者の加齢に伴う職業能力の変化に関する実態調査」の概要
3 「障害者の加齢に伴う職業能力の変化に関する実態調査」の調査票
A 事業所調査票
B 個人調査票

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