障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.34

知的障害者の就労の実現と継続に関する指導の課題 -事業所・学校・保護者の意見の比較から-

執筆担当者

向後礼子 障害者職業総合センター研究員
望月葉子 障害者職業総合センター研究員

(概要)

 本研究は,知的障害者が就労して職業生活に適応するための課題について,彼らをとりまく関係者(事業所・教員・保護者)間の意見を比較検討し,学校生活から職業生活への円滑な移行を支援するための課題を明らかにすることを目的としている。関係者間の意見を収集するために,質問紙調査を実施した。

 報告書は,以下の3部で構成されている。

第Ⅰ部では,調査項目の策定を行うために,知的障害者の一般就労を実現し,それを継続するための課題について,先行研究並びに学校教育における教育目標を概観して分類した。

第Ⅱ部では,策定した項目に基づいて実施した初回調査の結果をとりまとめた。調査対象は,特殊教育諸学校教員と,学校紹介によって協力を依頼した事業所並びに卒業学年に在籍する生徒の保護者とした。なお,事業所は卒業生の就職先であるため,知的障害者雇用経験がある。

第Ⅲ部では,初回調査の結果により,特に事業所の意見を明らかにすることを目的に実施した第2回調査の結果をとりまとめた。

【初回調査の結果について:第Ⅱ部】

1.一般就労を実現するための8領域(日常生活,職業生活,協調性,意思の表示,作業,職業に関する知識・理解,一般的知識,特徴)96課題について(第3節)

(1)事業所は企業規模などの属性の違いにかかわらず,一般就労を実現するための96課題の重要性に関し,比較的一致した傾向を持っていた。また,一般就労の実現に関し,重視すべき課題とその並び順が明らかとなった。

(2)課題を重視する並び順については,概ね,事業所・教員・保護者に共通していた。しかし,各課題を重視する程度については,事業所よりも教員や保護者の方が高い傾向が見いだされた 《事業所<教員・保護者》。

(3)関係者に共通して,「日常生活」「職業生活」「協調性」「意思の表示」の4領域では,「できなくてはならない」とされた課題が多かった。これに対し,「職業に関する知識・理解」「一般的知識」の2領域に関しては,「できなくてもさしつかえない」と評価された課題が多かった。

(4)養護学校高等部関係者は,中学部や中学校特殊学級と比較して,教員・保護者ともに,各課題を重視する傾向が強く,就労に対して高い準備性を求めていた。

2.一般就労を実現するための7課題(安全,時間の理解と管理,移動,数の理解,援助の程度,言葉の学習,金銭管理)50項目について(第4節)

(1)事業所は,“安全の確保(安全)”“出勤,仕事の開始・終了,昼休み等の時間については,ある程度自律的な行動が可能であること(時間の理解と管理)”“職場までは一人で来られること(移動)”等が必要であると考えていた。一方,他の4課題については,ほとんどの下位項目について「あまり必要でない」と考えていた。

(2)教員・保護者ともに,事業所の「必要性」の評価と相対的に一致した傾向を示していた。しかし,各項目を重視する程度については,事業所よりも教員や保護者の方が高い傾向が見いだされた《事業所<教員・保護者》。 (3)養護学校高等部関係者は,中学部や中学校特殊学級と比較して,教員・保護者ともに,各課題を重視する傾向が強く,就労に対して高い準備性を求めていた。

3.作業遂行について (「注意の持続」「作業の持続」「指示の理解」「仕事の出来高」「不良品の発生率」:第5節)

(1)「注意の持続」「指示の理解」では,基本的に《事業所≦教員・保護者》の傾向が認められた。しかし,「指示」には複数回やってみせることが必要であり,「注意」に関しても,毎日同じことを繰り返しながらでも作業が可能であると考える事業所がある一方で,「指示は1度」で,「1度注意したことは1ヶ月程度は持続して欲しい」と考える事業所もあるなど,事業所の意見には差がみられた。

(2)「仕事の出来高」に関しては,養護学校高等部関係者では,事業所の意見との間に有意差は認められなかった。しかし,養護学校中学部では《事業所>教員>保護者》,中学校特殊学級では《事業所>保護者>教員》となるなど,学校種別による差が認められた。

(3)「不良品の発生率」に関しては,養護学校高等部で《事業所>教員>保護者》,中学校特殊学級で《事業所>保護者>教員》となった。また,養護学校中学部では3者間の有意差は認められなかったものの,不良品の発生率を1%未満とする意見に関しては「事業所」と「教員」「保護者」との差は大きかった。

(4)「作業時間」に関しては,「一日の総作業時間」「連続作業時間」について,基本的に事業所の要求が最も厳しい(より長い時間を期待する)ものであった。

(5)作業遂行については,「仕事の出来高」「不良率」「作業時間」において,基本的に事業所の要求水準が高いことが示された。

4.その他について (「行動特性」「入職までの職業教育・訓練に関する意見」「企業が実施している配慮」:第6節)

(1)「行動特性」では,関係者に共通して「決してあってはならない」とする意見が半数を超えたのは,「乱暴する」のみであった。ただし,「決してあってはならない」に「できればない方がよい」を加えると,他の行動特性でも,半数を超えた。 また,教員と比較すると,保護者は「決してあってはならない」よりも「できればない方がよい」を選択する傾向にあった。

(2)「入職までの職業教育・訓練に関する意見」について,事業所では企業規模が小さいほど,入職までの職業教育・訓練に関する意見に肯定的であることが示唆されたが,他の属性(雇用比率・障害程度)による違いは見いだされなかった。一方,教員・保護者の職業教育・訓練に関する考え方は一貫しておらず,「どちらともいえない」という意見が各項目について3割~4割を占めるなど,明確な傾向は認められなかった。

(3)「企業が実施している配慮」については,事業所で知的障害者の雇用比率が高くなるほど,雇上の配慮をする傾向にあった。

5.学校卒業後の進路希望について(保護者対象:第7節)

(1)「就労による自立を求める」理由としては,『親の支援の限界』『能力・肯定的』『時期』『情報』などの理由が挙げられた。

(2)「就労による自立を求めない」理由としては,『障害の程度』『能力・否定的』『労働市場の情勢』『生活の場の確保』が理由として挙げられた。

6.「仕事の出来高」「不良品の発生率」に関する意見の違いに基づく検討(事業所対象:第8節)

(1)「仕事の出来高」に関する意見の違いと「就労の実現」等の課題に関する評価との間には,関連が認められた(「出来高」に関する期待が大きいほど「就労の実現」等に関する評価も厳しい)。

(2)「不良品の発生率」に関する意見の違いと「就労の実現」等の課題に関する評価との間には,関連は認められなかった。

7.「就労の実現」と「就労の継続」に求められる各課題に関する評価の違いについて(第9節) 関係者に共通して,基本的に「継続」するために必要とされる基準は,「実現」のために必要とされる基準よりも厳しいものとなった。また,「就労の継続」についても,《事業所<教員・保護者》の傾向が認められた。

【第2回調査の結果について:第Ⅲ部】

1.調査は,第1回調査において,期待する「仕事の出来高」に関して「健常者の70%以上」と回答した高群と「健常者の50%未満」とした低群を対象に行った。また,調査に用いた項目は,第Ⅱ部で検討した課題で「できなくてはならない」傾向の強い課題であった。
2.未達成の課題を「いつまでに」達成することが望ましいのかについて,期待する「仕事の出来高」の高群と低群間の意見の比較をした(第2章第1節)。

(1)両群間で差がみられなかった項目は,比較的早い時期の達成を期待されている。

(2)両群の見解が異なる場合には,高群の方が低群よりも早い時期の達成を期待されている。

3.未達成課題の達成を「誰の支援」を得て達成することが望ましいのかについて,両群間の差を検討した(第2節)

(1)就職後に初めて経験する場面での指導については,主として事業所の指導を期待している。

(2)作業に関わることは,職場以外でも経験できることであっても「事業所の指導」と回答する比率が高群で高い。

4.採用後に未達成課題がある場合に,どのような配慮をしているのかについて,自由記述の内容に即して検討した(第3節)

(1)各課題に関して「問題はない」とする事業所もある一方で,「繰り返しの指導」や「配置転換」などの配慮が必要であるとする事業所もあるなど,採用した個人能力や特性による個人差の影響が大きい。

(2)全体としては,高群では「問題はない」とする意見が,低群では何らかの「配慮が必要」とする意見が多く見られた。また,「家族」等,事業所以外の機関との連携を求める意見も見られた。

5.問題とされた行動特性のある知的障害者が雇用されている場合の配慮について,自由記述の内容に即して検討した(第4節)

(1)全体的な配慮では,担当職員を配置し,個別の特性に即した対応が行われていた。

(2)多くの場合,有効に使われているのが休憩時間であり,自然な声掛けを心がけているなど,指導時間や指導場面に対する配慮があげられていた。

(3)個別指導だけでなく,配置転換や自宅での休養などの対応がとられている場合もあげられていた。

(4)上記以外にも,職場に適応して問題が顕在化しなかった場合,逆に,勤務時間内の指導では対応できなくなった場合の経験もあげられていた。

6.知的障害者が雇用を継続していくために,「家族の協力」「関係行政機関の協力」「学校・施設の協力」等,職場以外で生活を支える体制の必要性が示唆された。 また,未達成課題に挑戦する知的障害者を支える関係者として,本調査で取りあげた事業所・学校・保護者の支援の範囲と限界について検討した(第5節)。知的障害者の就労を支えるうえでこれら3者にその他の機関を加えたネットワークの役割の検討については今後の課題である。

目 次

序   研究のねらい

第Ⅰ部 本調査研究で用いる課題と項目の策定

第Ⅱ部 調査

第Ⅲ部 事業所調査(その2)-安定した就労の継続のために:入職後の成長を支援するための課題-

資料

調査票

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第Ⅰ部 (PDF 231KB)

第Ⅱ部 (PDF 742KB)

第Ⅲ部 (PDF 116KB)

資 料 (PDF 1,585KB)



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