障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.60

障害者の職域拡大のための職場改善及び就労支援ツールに関する研究

執筆担当者(執筆順)

岡田伸一 障害者職業総合センター主任研究員
坂尻正次 障害者職業総合センター研究員

概要

 本報告書は2部構成となっている。第Ⅰ部では、事業所における障害者のための職場改善の状況を把握するために、労働省及び日本障害者雇用促進協会(現厚生労働省及び独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)実施の「障害者雇用促進のための職場改善コンテスト」の第1回(平成4年度)から第6回(平成14年度)の応募データを分析した。
 全6回の延べ応募事業所数は311社(重複を除くと275社)であった。それら事業所の業種として、電気機械器具製造業、食料品製造業、洗濯・理容・浴場業(主に洗濯業)が多い。従業員規模でみた事業所規模は、比較的小さく、また雇用障害者の障害種別は多種にわたる場合が多い。
 それら311社からのコンテストの応募用紙を詳細に読み、改善の原因になった問題点とその改善内容に着目して、改善の事例を抽出した。その結果、1,277事例を得た。それを障害種別にみると、肢体不自由464事例、視覚障害33事例、聴覚障害78事例、内部障害9事例、知的障害550事例、精神障害10事例となっている。その他に、障害種別が特定できない、あるいは障害全般にわたる事例が133件あった。
 次に、これらの事例を改善の原因となった問題点から、分類整理した。分類は大分類から中分類、そして小分類へと細分化を図った。大分類は、「作業遂行」(直接に生産工程やオフィスワークにおいて作業遂行に関わる問題点)、「職場環境」(建屋や施設等の物理的な職場環境に関わる問題点)、及び「人事・労務」(いわゆる障害者の雇用管理に関わる問題点)の3項目からなる。
 その下位レベルの中分類は、下の17項目から構成される。
問題点の中分類項目
大分類問題点中分類内容
作業遂行出力/表示使用している機械等の表示器(ランプ、メータ、ブザー等)に起因する問題
入力/操作具機械等を操作するための操作具(レバー、つまみ、ボタン等)に起因する問題
手作業・処理手作業及びそれを遂行中の各種作業情報の処理に関わる問題
文書処理紙面文書の読み書き、内容理解に関わる問題
安全作業遂行時の安全に関わる問題
意思伝達作業遂行場面における作業指示等の対面での意思伝達に関わる問題
生産性一般障害者に起因する問題ではなく、生産性に関わる工程や機械設備に起因する問題
職場環境作業場作業場のスペース、レイアウト、温湿度、騒音、照明等に関わる問題
移動段差、階段昇降等の職場内移動に関わる問題
共用施設社員の共用施設であるトイレ・更衣室等に関わる問題
人事・労務採用・配置採用、配置をはじめ、障害者の雇用拡大のための職域開拓等に関わる問題
定着障害者の職場定着に関わる問題で、障害者自身、事業所、家族等の連携等の問題を含む
教育訓練障害者の能力開発や職場マナー教育等に関わる問題
労働条件労働時間、賃金の査定等、労働条件に関わる問題
モチベーション仕事への心構えをはじめとする就労意欲に関わる問題
福利厚生住宅、寮、健康管理、余暇活動等の福利厚生に関わる問題
通勤通勤に関わる問題(駐車場を含む)
 さらに、中分類は小分類に細分された。これらの78項目は、さらに整備していく必要はあるが、職場改善のひとつのチェックポイントになるのではないかと考える。
 次いで、これら問題点分類と障害種別との関係をみた。それは、職場改善を検討するに当たり、まず対象障害者の障害に着目されることが多いのではないかと考えたからである。問題点の中分類と障害種別を対応させてみると、以下のような問題点に相対的に改善が多い。
  • 肢体不自由 ①手作業・処理[作業遂行]、②移動[職場環境]、③共用施設[職場環境]
  • 視覚障害 ①出力/表示[作業遂行]、②文書処理[作業遂行]、③移動[職場環境]、④採用・配置[人事・労務]
  • 聴覚障害 ①出力/表示[作業遂行]、②安全[作業遂行]、③情報伝達[作業遂行]、④定着[人事・労務]
  • 知的障害 ①手作業・処理[作業遂行]、②定着[人事・労務]
    ※ 内部障害と精神障害は事例数が少ないため、検討の対象から外した。
障害種別の相対的に改善事例の多い問題点(10%以上を網掛け)
中分類肢体視覚聴覚内部知的精神全般全体
出力/表示1.524.217.90.00.50.01.52.7
入力/操作具5.43.00.00.00.50.00.02.3
手作業・処理27.80.02.622.236.420.021.128.4
文書処理0.424.20.00.00.90.00.81.3
安全0.43.015.411.17.530.02.34.9
情報伝達0.03.019.20.01.10.00.81.8
生産性一般3.79.11.311.15.50.05.34.6
作業場5.63.03.80.04.90.04.54.9
移動26.115.22.60.00.50.03.810.6
共用施設11.40.01.30.00.20.03.04.6
採用・配置3.012.11.311.16.00.08.35.0
定着0.20.019.20.019.320.012.811.0
教育訓練1.73.07.70.04.710.06.84.0
労働条件0.60.00.011.11.10.04.51.3
モチベーション0.00.00.011.15.620.03.03.0
福利厚生7.10.07.711.13.80.018.06.7
通勤5.00.00.011.11.50.03.82.9
100.0100.0100.0100.0100.0100.0100.0100.0
 さらに、これらの問題点について、小分類に下りて、詳細に検討した。そこからは、障害特性との関連性が強いことが確認できる。例えば作業遂行場面について言えば、肢体不自由であれば、車椅子使用の場合は作業面の高さの問題が重要であり、上肢障害であれば、部材の把持の問題が重要となる。一方、視覚障害や聴覚障害は、視覚情報や聴覚情報の処理の問題が重要となる。具体的には、視覚障害の場合は、コンピュータ等の画面表示がわからない問題と、文字の読み書きの問題である。聴覚障害の場合は、機械のブザー音や異常音がわからない問題や、聴覚障害者に対する作業指示等の問題である。また、知的障害については、識別判断、数的処理、作業精度(作業ムラ)、作業内容の理解等の問題が重要である。
 職場改善の取り組みは、個々の障害者に対して、個々の事業所がその状況に合わせて実施するもので、最終的には個別的な対応といえる。そこで、本研究で抽出した1,277件の事例を種々の条件から参照できるように、データベース化を図った。そして同データベースソフトをCD-ROMとして本報告書に添付すると共に、その概要を第6章に示した。
 そして最後に(第7章)、今回は職場改善の原因となる問題点に注目して整理・分析を行ったが、今後の課題として、改善手法のより詳細な情報を得るためには、実際の職場改善の過程を詳しく追跡するケーススタディが必要になることを指摘している。また、我々のこれまでの就労支援機器・ソフトの開発経験から、業務用の機器・機械についても「ユニバーサルデザイン」という考え方が重要であることを指摘した。
 第Ⅱ部は、第Ⅰ部で報告した「障害者の就業における職場改善に関する研究」のサブ研究として行った「知的障害者の就業におけるパソコン利用マニュアル等の開発に関する研究」の報告である。
 今日の厳しい雇用情勢の中、知的障害者にもパソコンを利用する作業を遂行可能とし、その職域の拡大と職場の確保に資することを目的に、平成14年度から2年計画で、職場でのパソコン利用を強く意識した、知的障害者のためのパソコン利用支援マニュアル『仕事とパソコン』の開発を行った。初めに、「Windows操作編」と「文書作成編」の2編を開発し、引き続き「データ入力編」と「基礎用語編」の開発を行った。先に開発した2編については、平成16年2月末に市販化した。
「Windows操作編」と「文書作成編」
その基本コンセプトは以下の3点である。
  • 主要なユーザーは、中・軽度の知的障害者とする。その国語力(とくに文章の理解力)は小学3年程度とする。具体的には、漢字は教育漢字の小学3年レベルまでとする。ただし、職務等の中でよく用いられるビジネス用語やパソコン用語は例外とする。
  • 周囲の者の負担を軽減できるように、知的障害者が自学自習可能なマニュアルをめざす。
  • 対象パソコン作業としては、伝票等のデータ入力とする。なお、データ入力作業には、協力事業所等で行っている名刺作成や製品ラベル作成も念頭に置いている。
また、その基本仕様は以下の通りである。
① 対象OS及びアプリケーションは、Windows 2000とWord2000, Excel2000とする。
② 記述文章は、極力平易な文章とする。「ですます」調を記述の基調とし、実際にパソコンを操作する箇所は「である」調に変え、文字色も青色とし、「操作」を意識させる。
③ 仕事の上で覚えるべき用語は、やや難解と思えるものも脚注を付した上で、そのまま用いる。
④ 脚注を含む記述文章のすべての漢字及び英単語にはルビを振る。
⑤ 直感的に理解できるパソコン画面の図やパソコンや周辺機器等のイラストを多用する。
⑥ パソコン操作の説明文と、それを示す図とは明確に対応させる。
⑦ インストラクターをイメージした人物イラストにより、要点を整理し理解の促進を図る。
⑧ 演習と理解度チェックを配置し、マニュアルユーザーの理解を深めるとともに、周囲の者に理解度を確認できるようにする。(演習はユーザー用の練習問題で、理解度チェックは指導者確認用の練習問題である。)
⑨ 職場で求められるファイルの管理(確実にファイルを開き保存して閉じる)や日本語入力(手書きパッドや文字列のコピー等、自分なりの方法で日本語入力システムを使って目的の漢字を入力する)を習得できるようにする。
⑩ 1日の仕事の流れとパソコン操作の対応を明確にして、始業時・就業時に、あるいは休憩や昼休みに入る前に、行うべき作業を随時確認できるようにする。
⑪ パソコン作業に当たって、やってはならないことを、イラストを交えて明示する。また、トラブルが生じた場合や、分からなくなってしまった場合は、勝手な操作をせず、直ちに周囲の者を呼ぶことを習慣づけるようにする。
 「Windows操作編」と「文書作成編」について、知的障害者を被験者とした試用評価を特例子会社(N社)、能力開発施設(Tセンター)、知的障害者授産施設(Aセンター及びI施設)、知的養護学校(J校)の5カ所で行った。具体的には、マニュアル2編の第2次ドラフトを上記5カ所に送り、その社員・利用者・生徒等にマニュアルを読みながらパソコンを実際に操作してもらった。5カ所の指導者(責任者)には、マニュアルを精読するとともに、被験者の使用状況を観察し、使用感等についてアンケートへの回答を求めた。
 アンケートの結果は、概ね良好な結果であった。
 また、指導者にはマニュアルの改良すべき点を指摘してもらった。これらの点も含め、第2次ドラフトを修正し、マニュアルの最終版を作成した。なお、上記アンケートでは、指導者に対して、引き続き開発する「データ入力編」への要望等も求めた。そして、「データ入力編」と、全体の索引の機能を果たす「基礎用語編」については、それらの要望をふまえながら開発を進めた。併せて、Windows等のエラーメッセージが画面に出現したとき、その内容と対処法をわかりやすく説明する、「エラーメッセージ対処支援ソフト」の開発に着手した。これらについてもできるだけ早い時期に市販化等により希望者に提供する予定である。

目 次

概要

第Ⅰ部 障害者の就業における職場改善に関する研修-身体障害者及び知的障害者の職場改善の原因となった問題点を中心に-

第1章 研究の趣旨・目的
第2章 方法

第1節 データベース
第2節 データの抽出

第3章 応募事業所の概要

第1節 応募事業所の業種
第2節 応募事業所の従業員規模
第3節 応募事業所の所在地
第4節 応募事業所における雇用障害者の障害種別

第4章 問題点の分類

第1節 問題点の大分類
第2節 問題点の中分類
第3節 問題点の小分類

第5章 障害種別と問題点

第1節 障害種別と問題点の概要
第2節 障害種別と問題点の詳細
第3節 肢体不自由
第4節 視覚障害
第5節 聴覚障害
第6節 知的障害

第6章 職場改善事例データベースソフト

第1節 動作環境とソフトのインストール
第2節 基本的な使い方
第3節 全文検索と一覧表示

第7章 まとめ
参考文献
付表
1.肢体不自由
2.視覚障害
3.聴覚障害
4.知的障害

第Ⅱ部 知的障害者の就業におけるパソコン利用マニュアル等の開発に関する研究

第1章 研究の趣旨・目的
第2章 方法

第1節 開発のためのワーキンググループ
第2節 基本コンセプト
第3節 開発マニュアルの構成
第4節 基本仕様
第5節 開発の手順

第3章 「Windows操作編」及び「文書作成編」の開発作業

第1節 第1次ドラフトのチェック
第2節 試用評価
第3節 第3次ドラフト(最終版)の作成

第4章 「データ入力編」及び「基礎用語編」の開発作業

第1節 「データ入力編」等の開発
第2節 エラーメッセージ対処支援ソフトの開発

第5章 まとめ
参考文献
付録1 利用者に関するアンケート
付録2 日常生活能力水準
付録3 指導者用アンケート

報告書をダウンロード

報告書をダウンロードできます。下記をクリックしてください。(PDFファイル)

第Ⅰ部 (PDF 1,040KB)
第Ⅰ部 第5章 第1節 (PDF 1,301KB)
第Ⅰ部 第5章 第4節 (PDF 934KB)
第Ⅰ部 第6章 (PDF 736KB)
第Ⅱ部 (PDF 1,533KB)


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