障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.67

職業的視点から見た障害と地域における効果的支援に関する総合的研究

執筆担当者(執筆順)

矢部 憲一 (障害者職業総合センター 社会的支援部門 統括研究員) 序論
春名 由一郎 (障害者職業総合センター 社会的支援部門 研究員 概要、目的と方法、第Ⅰ部、第Ⅱ部、第Ⅲ部、総括
清水 亜也、青林 唯 (障害者職業総合センター 社会的支援部門 研究協力員) 別冊

(目的・方法)

  多様な障害種類や程度、また、職種や働き方などの職業的目標を踏まえた個別的な「職業的視点からみた障害」の捉え方に基づき、従来職業に就くことが困難とされてきた障害のある人たちに対して、社会全体の課題として、事業主や、労働、福祉、教育、医療分野などの専門性を最大限に活用した地域的な支援体制の構築が課題となっている。
  そこで、本研究では、WHO(世界保健機関)が2001年に発表した国際生活機能分類(ICF)に準拠して、新たな「職業的視点からみた障害」の包括的なモデルを構築し、障害や疾患、職業、支援方法、社会資源に関する最新情報に基づいて、事業主や、労働、福祉、教育、医療分野などの関係者が広く活用できる「個人の職業的課題」「環境整備の課題」「個別就業支援計画」を明確にし、また、課題解決を目指すための情報ツールを開発することを目的とした。
  本研究では、WHO(世界保健機関)が2001年に発表した国際生活機能分類(ICF)に基づく、「障害」と「生活機能」の概念枠組を基盤として、文献や専門家ヒアリング等による「職業的視点からみた障害」についての基礎的な概念整理、及びこれと平行して、障害者雇用事業所、福祉施設の就労支援、海外での先行的な情報ツールの調査を行った。これらをもとに、関連情報をデータベース化し、リハビリテーション関係者等による実地試験を繰り返すことにより情報ツールの研究開発を行った。

(結果の概要)

  本報告書の結論は「現実の様々な職業生活上の課題に対して、地域の関係機関が効果的に支援を提供する。」という単純極まりないグランドデザインと、それを実現するための全国レベルの調整に役立つ情報ツールの提案である。
  我々は、わが国の障害者雇用支援や職業リハビリテーションには根本的な課題があることを明らかにした。1つは、現在の様々な障害の捉え方は、実際の職業場面での問題を把握できていないということと、2つめは、それに伴って、地域の就労支援も本当の問題に対して効果的な支援を提供できていないということである。この報告書では、この現状に対する分析と解決のための提案を述べる。
  本研究の内容は、この報告書に3部構成としてまとめた。なお、同時に開発した情報ツールはインターネットで提供されており、そのマニュアルを別冊としてまとめた。また、本研究の一部である全国障害者雇用事業所実態調査と全国福祉施設就労支援実態調査の結果については、それぞれ障害者職業総合センター資料シリーズ No.27とNo.29にまとめた。

(1)職業的視点からみた障害について
  就職や職業生活上の様々な問題について、個人と社会のそれぞれの課題や、個々人の職業的目標、個性といった多様な側面を構造的に捉えることを可能とするため、国際生活機能分類(ICF)の「障害」と「生活機能」の概念枠組を用いて、多様な現実の様々な職業生活上の課題を分類するとともに、相互の関連性を明らかにすることとした。

ア 職業上の解決すべき課題としての障害
  特定の「障害者」がいるのではない。職業に関連する課題そのものを「障害」と捉えることが、全ての検討の出発点である。

  • 職業上の問題の分類: 障害と生活機能の構成要素に沿って、職業場面での様々な視点による問題や課題を分類できる。
  • 障害/生活機能の要素間の関係性: 疾患と障害の関係については既に多くの信頼できるデータがある一方で、その他の、障害の因果等に関係する要素・要因間の相互関係については個別の分析事例が積み重ねられている段階である。
  • 障害と障害でないもの: 失業や差別や怠けなどによる一般的な職業的困難性や問題と区別して、「職業的視点からみた障害」を適切に把握するためには、「健康状態」との関連を前提にすることが適切である。

イ 社会的課題としての障害
  ICFの環境因子という概念を踏まえ、職業場面における実際の問題への効果的な支援のあり方について、個人と社会の両面からの実証的で科学的なアプローチと、社会的コンセンサス形成を行うことが必要である。

  • 職業的視点からみた障害の環境因子:障害のある人の就労支援に関わる全ての要素を、障害と生活機能に影響する「環境因子」として分類することができる。
  • 環境因子と障害の関係:企業の環境整備のあり方や地域の支援のあり方は、職業的視点からみた障害の改善効果から実証的に検討する必要がある。
  • 標準的な環境整備のあり方:妥当な職業能力評価と職場や地域での環境整備のあり方については、標準的環境のコンセンサス形成が必要である。

ウ 個別的な課題としての障害
  障害というマイナス面ではなく、個性や強みに応じた職業的目標の自己決定をこれまで以上に重視し、それによって職業的課題を解決する支援が個別化、多様化することが必要になる。

  • 働き方や職種による個別性:職業的視点からみた障害は、職種や働き方との組み合わせによって、個別的に捉える必要がある。
  • 職業的目標の個別性:「職業的視点からみた障害」の個別性の最大の所以の一つは、個人の興味・強みによる多様な働き方や職種・労働条件の選択の自律等にあるといえ、それらを促進するためには個別的な支援が不可欠になる。
  • 障害以外の職業的な課題:障害とは関係のない個人的な要因(興味、知識、スキル、経験等の強み)は、職業的目標設定や支援において、障害と同様に重要な課題である。

(2)地域における効果的支援について
  我々は「地域における効果的支援」の範囲を、実際の職業的課題に関連する環境である企業による職場環境整備を中心に、それを地域の関連機関が支えるという構図で捉えることとした。このため、障害者雇用事業所のノウハウの蓄積、福祉施設による就労支援の実施に着目して全国調査を行うとともに、海外における全国レベルでのネットワーク調整の先行事例について訪問調査を行った。

ア 企業による環境整備の標準化
  職場環境整備によって、障害者の職業的課題がどのように影響されているかを明らかにするため、全国の障害者雇用事業所の人事労務担当者、障害者本人及びその上司を対象とした郵送調査を行った。
  企業による職場環境整備は職業上の問題解決への非常に有効な解決策である。問題解決に有効であり、かつ、経営上の過大な負担を及ぼさない範囲・レベルでの企業による環境整備のあり方について、社会資源の有効活用を前提として、関係者のコンセンサス形成を促進する必要がある。

  • 効果的支援としての職場環境整備:わが国の障害のある人を雇用する事業所において、実際に、職業生活上の課題を劇的に軽減・解消させている環境整備が多くあるため、整備率が高いものについては最低基準のガイドラインとすることを提案する。
  • 社会資源の活用の効果:環境整備の実施率を向上させるためには、環境整備は企業だけがコスト負担するのではなく、社会資源による効果的なバックアップを前提とすることが有効であることを調査結果から示す。
  • 環境整備にかかる雇用主の責務:障害のある人にかかる職場環境整備のあり方について、米国においては雇用主の責務についての雇用機会均等委員会による詳細なガイドがあるが、わが国を含めてそれ以外の多くの国では、その解決については企業ごとに両者間のコンセンサス形成をする必要がある。

イ 地域の関係機関による就労支援
  新たに地域の就労支援にかかる社会資源として期待される福祉施設における雇用・就労支援の現状と課題及び今後の展望を明らかにするため、その「雇用・就労支援」及び「事業主のニーズへの対応」の内容に焦点を絞った全国郵送調査を行った。
  地域の関係機関が就労を含む個別支援を担う社会的動向があるが、一般雇用への目標指向性もなく、実際の職場での問題も環境側の課題も把握せずに「就労支援」を行った場合には効果を上げることは難しい。個人と企業の実際の職業場面におけるニーズに支援サービスが適切に対応するための調整機能が必要不可欠である。

  • 福祉や教育の分野における個別支援の動向:福祉や教育の分野における個別支援の中での就労支援には「実際の職業場面での問題把握」や、「個人と企業の観点の調整」といった重要なプロセスが明確に位置づけられていなかった。
  • 福祉施設による就労支援の現状:多くの福祉施設が就労支援を行っているというが、実際に一般雇用に向けた就労支援に成功しているのは、目標指向的な就職活動を行っているわずかな施設だけであり、大部分の施設は福祉的就労の場でしかなかった。
  • 職業生活のニーズと地域支援の調整の必要性:現在の福祉施設で、就労支援に実際に対応できる施設は多く見積もっても30%未満という状況であった。さりながら、このような具体的な支援ニーズとの実際のマッチングによって、今後の福祉施設による地域における就労支援の基盤が開発されていくことも期待したい。

ウ 情報支援によるネットワーク調整機能
  企業による環境整備や関係機関の調整に資するべく、全国レベルでの情報支援に先行的に取り組んでいる米国(労働省障害者雇用政策局、ジョブアコモデーションネットワーク、コンピューター・電子機器供与プログラム)とドイツ(REHADAT)の訪問調査を行った。
  インターネットを活用して障害のある人や雇用主のニーズに対応した多様な情報提供サービスを、関係機関と連携して、迅速に行っている先行事例を米国とドイツにおいて検討し、個別的な就労支援に必要な柔軟なネットワーク形成の効果を確認した。

  • 米国の連邦政府によるDisabilityInfo.gov:行政の縦割りの連携ではなく、市民中心のOne-Stopサービスによる行政機関の連携の方が、個別ニーズ対応に有効。
  • 米国労働省によるJob Accommodation Network:障害のある人の職業問題の全てについてOne-Stopで相談に応じることができるサービスは、職業的視点からみた障害についての構造的で総合的なモデルと、複数の専門領域からなるチームによって実現されている。
  • 米国連邦政府コンピューター/電子機器供与プログラム:情報技術の活用によった個別的直接的な対応の方が、類型化や定型化、段階的対応よりも迅速で効率的な対応が可能である。
  • ドイツのREHADAT:社会資源の有効活用は、ニーズに対するオンライン発注の仕組みをモデルにできる。

(3)障害者雇用支援総合データベースの開発
  上記の「職業的視点からみた障害」に関する知識情報を体系的にデータベース化するとともに、関係者がそれを活用しつつICFを共通言語として必要な情報を共有する方法やツールの開発を、試作と実地試験の繰り返しを通じ行った。

ア 職業的視点からみた障害のデータベース化
  「職業的視点からみた障害」に関係する医学・生理・心理、職業、支援、社会資源などの専門的情報について、ICFの概念枠組とコード体系によってデータベース化することが可能である。

  • 障害のある人の職業関連情報の登録:「職業的視点から見た障害」に関わる情報は医学・生理・心理、職業、支援、社会資源等の広範囲にわたるため、必要な情報をICFの構造モデルに従って体系的にデータベース化することが必要である。
  • 更新の必要性と多領域の連携:データベースの情報は専門性が高く、更新も頻繁に必要とするものが多いため、専門分野別に分業してデータベースを管理運用する必要があることから、国際的かつ多領域にわたる共通言語の意義が大きい。
  • 多様な利用場面への対応可能性:多様な人々の多様な目的に応じられる柔軟な体系的情報とするためには、ICFのツリー構造の情報体系を有効活用することが必要である。

イ 個別就労支援のための情報ツールの開発
  ツールの開発と実地試験による検証の繰り返しを、いわば「らせん状」に連鎖させることにより、ツールの信頼性や妥当性を効率的に向上させる開発方法をとった。この方法により、3年間で大きく3度のバージョンアップを行い得た。
  共通言語としてのICF活用や、「職業的視点からみた障害」の効果的な記述のあり方について検討した成果として、インターネットで提供される情報ツールである「ユニバーサル・ワーク・データベース」と「WorkNET」の2つの形態を提案する。

  • 共通言語としてのICF活用のあり方:支援関係者のニーズにあったICFの活用法は、支援の目的に最小限の負担で対応できる効率的な評価方法や情報共有様式、効率的な知識情報の検索にあることが明らかとなった。
  • 「職業的視点からみた障害」の記述:データベースを最大限活用することを前提として職業評価の流れや評価項目を見直し、個別的ニーズを踏まえた効果的な社会的支えの構築という目的指向性を明確にすることにより、チェックリストと個別就労支援総合計画書の様式での簡便な記述が可能である。
  • 情報ツールの形態:利用者側にとって個人情報を登録する敷居は高く、情報管理の負担も大きいため、個人情報は切り離したウェブサイト上での情報ツールと、個人情報を扱うことができる情報ツールという2つの形態で提供する必要がある。

ウ 社会的支援の調整機能
  地域ネットワーク構築に関するツールの活用可能性について、外部関係者を含む検討を行った。
  「障害者雇用支援総合データベース」は、職業生活上のニーズと既存の支援方法や社会資源に関する情報を結びつけることにより問題の解決に役立ちうるだけでなく、現時点では該当する支援方法や社会資源が見出されない場合についても、社会的支援の課題を明確にするという社会への提示・調整・啓発機能が期待される。

  • データベースとしての活用 :今後、「障害者雇用支援総合データベース」は試用版として、一般に提供されることによって、その実際的効果を検証していく必要がある。
  • 雇用と福祉の連携のために :「障害者雇用支援総合データベース」は障害のある人の就労可能性の判断において不可欠の情報を提供し、また、障害のある人の職業生活を支える支援ニーズを明確にすることにより、新しい雇用と福祉の連携のあり方を支えるツールとしても期待される。
  • 社会的支援ニーズの明確化 :現時点では該当する効果的な支援方法や社会資源が見出せない場合においても、社会的支援の課題として、地域の社会資源整備の必要性や、研究開発ニーズを明確にするという調整・啓発機能が期待される。

目次

概要
序論
目的と方法
第Ⅰ部:職業的視点からみた障害
第1章 職業上の解決すべき課題としての障害
第2章 社会的課題としての障害
第3章 個別的な課題としての障害
第Ⅱ部:地域における効果的支援
第4章 企業による環境整備の標準化
第5章 地域の関係機関による就労支援
第6章 情報支援によるネットワーク調整機能
第Ⅲ部:障害者雇用支援総合データベースの開発
第7章 職業的視点からみた障害のデータベース化
第8章 個別就労支援のための情報ツールの開発
第9章 社会的支援の調整機能
総括
謝辞

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