障害者職業総合センター
 
 

調査研究報告書NO.69

鍼灸マッサージ業における視覚障害者の就業動向と課題-視覚障害者の職業的自立支援に関する研究(サブテーマⅠ)“視覚障害者の働く場の確保・拡大のための方策及び必要な就労支援策に関する研究”にかかる報告-

執筆者とその分担(氏名の50音順)

岩本光弘 (筑波大学附属盲学校高等部専攻科鍼灸手技療法科教諭) 第Ⅱ部第1章(共同執筆)、第Ⅱ部第3章(共同執筆)
大橋由昌 (朝日新聞東京本社管理本部人事厚生セクション・ヘルスキーパー) 第Ⅱ部第1章(共同執筆)、第Ⅱ部第3章(共同執筆)
指田忠司 (障害者職業総合センター研究員) 概要(共同執筆)、序章1,3,4,第Ⅰ部第1章(共同執筆)、第Ⅰ部第2章(共同執筆)、第Ⅱ部第1章(共同執筆)、終章
原島雅之 (障害者職業総合センター研究協力員) 序章2、第Ⅰ部第1章(共同執筆)、第Ⅱ部第1章(共同執筆)
藤井亮輔 (筑波技術短期大学視覚部鍼灸学科助教授) 第Ⅰ部第1章(共同執筆)、第Ⅰ部第2章(共同執筆)、第Ⅱ部第1章(共同執筆)
吉泉豊晴 (障害者職業総合センター研究員) 概要(共同執筆)、第Ⅰ部第1章(共同執筆)、第Ⅱ部第1章(共同執筆)、第Ⅱ部第2章、第Ⅱ部第3章(共同執筆)

(目的・方法)

 本研究では、①視覚障害者の働く場の確保・拡大のための方策及び必要な就労支援策を明らかにするとともに、②新技術を活用した就労支援技法・機器の開発を行い、今後の視覚障害者の職業的自立に向けての総合的な支援のあり方を提示することを目的とした。そして、上記①についてこれを「サブテーマⅠ」とし、②に関する研究とは別個の研究として取り扱った。
 サブテーマⅠでは、視覚障害者が伝統的に従事してきた三療分野における雇用・就業の実態に関する調査と、三療以外の分野における雇用・就業実態に関する調査とに分けてこれを実施したが、本報告では、視覚障害者の多数がそれによって職業的自立を図っていると認められる前者についての報告を主眼として行うこととし、三療以外の分野における視覚障害者の雇用・就業実態と課題については、別途当センター刊行の資料シリーズにおいてこれをとりまとめることとしている。
 三療分野における視覚障害者の雇用・就業実態とその課題を明らかにするため、「鍼灸マッサージ就業実態調査」と、「ヘルスキーパー就業実態調査」を実施し、その結果及び考察をとりまとめている。
 なお、「鍼灸マッサージ就業実態調査」では、鍼灸マッサージ施術所で働く視覚障害者の実態を可能なかぎり客観的に把握する趣旨から、行政が所管する施術所名簿及び出張業者名簿に基づいて標本を抽出した調査を実施し、晴眼業者と比較しながら視覚障害業者の業態特性を分析し、課題を明らかにしている。
 また視覚障害の程度について、行動視力の観点から分析し、施術形態、副業、収入などの面において、視覚障害業者の間でも、行動視力の有無によって顕著な差異が認められることを明らかにしている。
 ヘルスキーパーの雇用実態については、「ヘルスキーパー就業実態調査」の結果を分析した他、訪問調査の結果をもあわせて考察し、ヘルスキーパーとして働く視覚障害者の実態と課題を明らかにしている。

(結果の概要)

(1)鍼灸マッサージ施術所をめぐる動向
 平成15年1月~2月にかけて、鍼灸マッサージ就業実態調査研究会に委託して実施した「鍼灸マッサージ就業実態調査」の結果を整理・分析した。
 調査対象は、1都4県下の12保健所が所管するあん摩師名簿台帳(平成14年作成分)記載の3084業者とし、全員に調査票を郵送した(有効回答率21.6%)。調査項目の柱は、a.回答者の属性、b.営業形態・営業規模・勤務状況・収入状況等、c.仕事への満足度・知識技術への自己評価・将来への不安等、d.経営戦略・視覚障害業者への支援ニーズ等である。
 業者名簿台帳及び調査票の回収状況からは、①免許の重複状況、②就業鍼灸師の数、③「衛生行政業務報告例隔年第55表」の下方修正の必要性、④就業自営業者数の実態、⑤出張業者数の実態が明らかにされている。
 そして、有効回答の分析結果をもとに、三療業態の一般的な特徴を踏まえつつ、晴眼業者との比較で、次のような視覚障害業者の特性が明らかにされている。
 ①自営業者の男女比は7対3で男性が多く、年代構成は50歳以上が3分の2を占め、30歳未満は3%であるが、このような男性傾斜と高齢傾向は視覚障害業者に顕著であり、男女比は8対2、50歳以上は8割を超えており、65歳以上は48%に達する。
 ②視覚障害業者の障害等級をみると1級、2級の重度視覚障害者が84%を占め、行動視力では、一人歩きが困難な業者(A)は44%、一人歩きができる程度の業者(B)も46%で、障害等級の上で重度に属する業者でも、行動レベルでは比較的軽度なグループに含まれる業者がかなりいることがわかった。
 ③上記A.では院内専門業者の割合が3分の2と高く、営業形態では上記B及び晴眼業者と対称的である。副業従事率でも同様の傾向にあり、同じ視覚障害業者でもAとBの業態は著しく異なることがわかった。
 ④従業員を雇用している視覚障害業者は16%にとどまる一方、その雇用従業員数も9割が5人未満で占められており、小規模経営が顕著であった。
 ⑤視覚障害業者の3割は、一ヶ月に扱う患者数が30人未満の業者で100人未満の累積率は7割を超える。これを反映して、視覚障害業者の年間施術料収入は、300万円未満の階級に約6割、500万円未満の階級に約8割が集中しており、晴眼業者と比べて低い水準にある。
 ⑥施術料収入額を行動視力との関係でみると、300万円未満の階級では上記A(69.6%)がBを8ポイント、300~499万円では逆にB(26.5%)がAを9ポイント上回り、施術料収入額が行動能力の影響を受けていることが示唆される。
 ⑦施術料収入の不足分を晴眼業者では副業で補う傾向にあるのに対し、視覚障害業者の多くは、障害基礎年金に依存している。
 ⑧患者確保策として、視覚障害業者の多くが市区町村発行の鍼灸マッサージ券を活用している一方、健保を積極的に活用している者は9.8%と低い。
 ⑨低い施術料収入に3分の2の業者が不満を抱きつつも、8割が仕事にやりがいを感じている。ただ視覚障害業者では施術料収入に満足している業者が多い反面、仕事へのやりがいを感じている率では晴眼業者を下回っている。
 ⑩将来の仕事の在り方として、「健康保険を活用した在宅ケア」の展開に4割、「介護支援事業所やデイサービス事業所と複合した経営」に4分の1が関心を寄せていた。一方、「ヘルスキーパー」、「機能訓練指導員」などを短時間労働の副業として望む業者も全体の1割以上を占めたが、これらの割合は視覚障害業者で高い。
 ⑪行政へのニーズを視覚障害業者に限ってみると、「カイロなど違法業者の取締り強化」を求める割合が最も高く過半数を占めているが、鍼灸学校の増設、柔整業者による療養費の運用など経営環境の悪化を招いているその他の要因についても、規制を求める割合は晴眼業者よりも高い。
 ⑫重度視覚障害業者のために必要と思われるサービスの内容では、施術所内の衛生・安全管理に関する介助が最も多く、カルテ処理などの事務介助、在宅ケアの際の移動介助が続いた。特に晴眼業者では、施術所内の衛生・安全管理に関する介助の割合(76.8%)が視覚障害業者を11.5ポイント上回っており、安全衛生管理面での関心の高さが窺える。

(2)鍼灸マッサージ施術所における視覚障害者の就業を促進する上での課題
 ①視覚障害者が在宅ケア業務に従事する場合の支援の充実、
 ②ヘルスキーパーを副業として希望する視覚障害者に対する雇用・就業機会の拡大を目指した地域労働者健康支援システムの検討、
 ③介護保険の適用対象となる機能訓練に係わる研修の支援、
 ④施術所の衛生環境保持に資するための環境衛生業務介助員制度の創設が挙げられている。

(3)ヘルスキーパーをめぐる状況
 平成15年2月~3月にかけて、鍼灸マッサージ就業実態調査研究会に委託して実施した「ヘルスキーパー就業実態調査」の結果を整理・分析した。
 この調査は、1都1府9県に所在する事業所でヘルスキーパーとして働く118人に調査票を送付してその回答を求めたものであるが、回収された調査票は63件で、回収率は53%であった。調査項目の柱は、a.回答者の属性、b.職務遂行の現状、c.職業的意識に関する状況、d.将来展望と施策ニーズに関する状況である。
 ヘルスキーパーの特徴的側面に着目しながら調査結果を分析すると、次のような回答者の特性が明らかにされている。
 ①男性よりも女性が多く、勤務先が都市部に集中しており、重度障害者が多い。
 ②鍼灸マッサージ師の国家師格を有している。
 ③施術対象者と同じ企業の従業員であるが、雇用関係をみると、正社員と嘱託または契約社員とがそれぞれほぼ半数を占めている。
 ④産業衛生に貢献しているが、医療的位置づけに比べ福利厚生的位置づけの色彩が強い。
 ⑤職業意識の面では、仕事のやりがいを感じている人が半数以上を占めているが、収入に満足している割合は2割強に留まる。
 ⑥施術者としての知識・技術に満足していない人が7割に達し、勤務し続けることへの不安を感じている割合が6割以上に昇っている。しかし、概ね、現状のヘルスキーパーの勤務を継続したいとする意見が多く、臨床技能を高めるための教育・研修の充実や治療ガイドラインの作成を望む声が多かった。

(4)ヘルスキーパーに関する訪問調査の結果
 平成15年3月から9月にかけて4件実施し、当該事業所で働く視覚障害者とともに、上司等担当部署の管理者にも質問した。その結果、次のような特徴が明らかになった。
 ①ヘルスキーパーは専門職として位置づけられており、他の専門職と同様に正社員とは異なる雇用形態で雇われていた。
 ②ヘルスキーパーの福利厚生面での意義を重視する事業所が多かったが、施術料の徴収、マッサージ室の利用条件、産業医等他の医療・保健スタッフとの連携には細部において差異がみられた。
 ③ヘルスキーパーに対する従業員の評判は高く、3事業所において以前雇用していたヘルスキーパーが離職した後も引き続き他のヘルスキーパーを雇用していた。また、2事業所では同一企業の他の事業所にもヘルスキーパーを配属していた。
 ④従業員の健康管理への施術の貢献度を客観的に検証しているところはなかった。

(5)ヘルスキーパー雇用を促進する上での課題
 ①ヘルスキーパーの雇用者としての身分の確立
 ②産業衛生への貢献の認識促進及び制度的位置づけ
 ③都市域外及び中小企業における働く場の拡大、
 ④研修体制や養成課程の整備拡充

(6)三療分野における視覚障害者の雇用・就業を進めていくための提言
 ①鍼灸マッサージ施術所で働く視覚障害者に対する支援策の在り方について専門的立場から検討すること、
 ②ヘルスキーパーの多用な働き方についてモデル・ケースを抽出・検討し、その評価・検証に取り組むこと

目次

概要
序章 研究の背景と調査計画
1.研究の背景
2.視覚障害者の三療分野における就業実態に関する文献資料について
3.本研究における課題と調査方法
 (1)三療分野における視覚障害者の就業実態に関する調査
 (2)三療以外の職業における視覚障害者の就業実態に関する調査 4.本書の構成について

第Ⅰ部 鍼灸マッサージ施術所をめぐる動向

第1章 鍼灸マッサージ就業実態調査の結果から

第1節 調査の目的と方法

1.調査の目的

2.調査の方法
 (1)調査の対象及び客体
 (2)就業あん摩師数及び施術所数の抽出率
 (3)調査項目と実施方法
 (4)調査期間


第2節 調査結果の概要

1.調査票の配送と回収状況から
 (1)調査票の配布状況
 (2)調査票の回収状況

2.回答者の属性別状況
 (1)性別と年齢
 (2)開業後の営業年数
 (3)視覚障害業者の割合と行動視力の状況
 (4)出身学校
 (5)三療師とあん摩単独業者の割合
 (6)他の関連資格の取得状況
 (7)業界の加入状況

3.業務の現状
 (1)営業形態
 (2)施術料収入
 (3)施術料以外の収入と副業
 (4)従業員雇用の有無
 (5)健康保険取扱いの状況
 (6)マッサージ券・鍼灸券の取扱い状況
 (7)1ヵ月当たりの取扱い患者数
 (8)就業時間と休日数
 (9)主に扱う症状・疾患
 (10)施術の方法
 (11)日常業務で心がけている事柄

4.職業意識に関する状況
 (1)仕事へのやりがい感
 (2)あん摩業・鍼灸業への評価に対する意識
 (3)施術料収入に対する満足度
 (4)施術技術・知識及び経営能力に対する満足度
 (5)経営環境の変化に対する意識
 (6)経営の将来と転職指向の意識

5.経営の将来展望と施策ニーズに関する状況
 (1)今後の経営戦略
 (2)行政施策へのニーズ
 (3)重度視覚障害業者の支援サービスに関する意識


第3節 調査結果にみる現状とその考察

1.業者名簿台帳及び調査票の回収状況から
 (1)免許の重複状況
 (2)就業鍼灸師の数
 (3)「隔年第55表」の下方修正の必要性
 (4)就業自営業者数の実態
 (5)出張業者数の実態

2.有効回答の分析結果から
 (1)属性からみた視覚障害業者の特性
 (2)行動視力が営業形態と副業に及ぼす影響
 (3)取得資格の状況
 (4)視覚障害業者の業態及び意識特性の概要
 (5)視覚障害業者にみる施術料収入の低迷とその要因
 (6)経営の将来展望と施策ニーズに関する状況


第4節 鍼灸マッサージ施術所に関する調査のまとめ

1.調査票の回収状況から

2.回答者の分析結果から

第2章 鍼灸マッサージ施術所における視覚障害者就業に関する施策への提言

第Ⅱ部 ヘルスキーパーをめぐる状況

第1章 ヘルスキーパー就業実態調査から

第1節 調査の目的と方法

1.調査対象者

2.調査方法

3.調査期間

4.調査事項


第2節 調査結果の概要

1.調査票回収状況

2.回答者の属性別状況
 (1)性別及び年齢
 (2)勤務先と住まい
 (3)現在の職場の勤続年数
 (4)あはき免許の種類と出身学校
 (5)行動上の困難の程度と視覚障害の等級
 (6)あはき業界団体加入の有無

3.職務遂行の現状
 (1)雇用形態
 (2)勤務時間及び勤務日数
 (3)社内診療所型、施術所型の別
 (4)1ヶ月当たりの患者数
 (5)主な施術法と主に扱う症状・疾患
 (6)副業の有無
 (7)収入
 (8)日常業務において心がけている事柄について

4.職業的意識に関する状況
 (1)仕事へのやりがい
 (2)ヘルスキーパーに対する評価
 (3)収入への満足度
 (4)知識・技術への満足度
 (5)ヘルスキーパー勤務への不安

5.将来展望と施策ニーズに関する状況
 (1)転職の希望
 (2)将来の勤務形態への希望
 (3)ヘルスキーパーを含むあはき業発展のために望むこと


第3節 調査結果にみる現状とその考察

1.調査の特質と意義

2.ヘルスキーパー雇用の特質
 (1)ヘルスキーパー開拓史の概要
 (2)ヘルスキーパー業務の特性における2つの側面

3.ヘルスキーパー業務の実態とその特徴
 (1)ヘルスキーパー業務の定義とそれに関連する実態
 (2)ヘルスキーパーをめぐるその他の実態

4.ヘルスキーパーの職業的意識と将来展望
 (1)ヘルスキーパー雇用をめぐる需給拡大の可能性
 (2)ヘルスキーパーの職業的意識とその背景
 (3)ヘルスキーパーとしての将来展望と施策へのニーズ

第2章 事例調査の結果から

第1節 調査の目的と方法

1.調査対象の抽出

2.調査の方法

3.調査期間

4.調査事項


第2節 調査結果の概要

1.事例W

2.事例X

3.事例Y

4.事例Z


第3節 調査結果にみる現状とその考察

1.ヘルスキーパーの雇用者としての位置づけ

2.ヘルスキーパーの施術の位置づけ
 (1)施術料の徴収
 (2)マッサージ室の利用条件
 (3)産業医等他の医療・保健スタッフとの連携

3.ヘルスキーパーに対する評価

第3章 ヘルスキーパーの雇用実態調査のまとめと施策への提言

1.ヘルスキーパーの雇用者としての身分の確立

2.産業衛生への貢献の認識促進及び制度的位置づけ

3.都市域外及び中小企業における働く場の拡大

4.研修体制や養成課程の整備拡充

終章 本研究のまとめ

資料1 鍼灸マッサージの業態アンケート調査票

資料2 ヘルスキーパーの就業実態に関するアンケート調査票

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